長らく苦境が伝えられていた米雑誌業界だが、今年は初めて広告販売が前年度を上回る見込みとなるなど、やや回復の兆しを見せているという。米Wall Street Journalの7月19日(現地時間)付けの報道によれば、主要ファッション誌15のうち、12の雑誌で9月号が前年度を上回る広告ページ数を達成するなど、リバウンド現象がみられるという。これは企業の広告出稿増加に加え、iPad向けの電子書籍アプリの登場など、マルチメディア戦略が拡大したことを受けてのものだという。

米国では新学期シーズンのスタートが9月となっているため、この時期をターゲットとした商戦を仕掛ける企業が多く、一般に広告が集まりやすい傾向がある。そのため、9月発売の雑誌の広告出稿は景気のバロメーターとして利用されることが多い。米Publishers Information Bureau (PIB)が7月12日に発表した2010年第2四半期のデータによれば、業界によって若干温度差はあるものの、おおむね広告売上とページ数ともに回復傾向がみられ、9月の"Back-to-School"商戦の含まれる第3四半期でも同様の上昇が見られる可能性は高い。とはいえ、まだ状況が反転したという事実のみで、広告売上が以前のような水準に戻るのはまだまだ先のようだ。WSJによれば、例えば米Conde Nastのファッション誌「Vogue」は、(9月号という事情もあるが)2007年9月の広告ページ数が725ページなのに対し、今年9月のページ数は現時点で532ページだ。昨年9月よりも25%以上回復しているものの、比較的厳しい状況にあるのは依然として変わりない。

そして、こうした最近の回復傾向を後押ししているのがiPadアプリなどにみられる雑誌の電子版だ。Conde Nast発行の「WIRED Magazine」の電子版など、最近では大手出版社を中心にiPadなどのタブレット型デバイスを対象にした、実験を兼ねた電子出版参入が相次いでいる。既存コンテンツの電子化だけでなく、画像やビデオの追加など、マルチメディアを活かしたコンテンツ作りが特徴だ。こうしたコンテンツはいまだ高コスト体質という問題があるものの、広告主らの興味や実験への積極的参加もあり、新メディアへの水平展開と広告出稿増加を推し進める原動力となっているようだ。