情報通信研究機構(NICT)は7月1日、何もない平らなテーブルの上に立体映像が浮かび上がり、椅子に座っていても、周囲から複数人で同時に高さのある立体映像を観察できる、テーブル型の新しい裸眼立体ディスプレイ「fVisiOn(エフ・ビジョン)」を開発したことを発表した。

今回、開発された技術は、何もない平らなテーブル面上に高さのある立体映像を浮かび上がらせて再生でき、着座時のような周囲360°から見下ろすように観察する場面に特化したもので、複数人が裸眼で自然に利用可能なインタフェースとなっている。

立体映像の再生には、NICTが新たに開発した特殊な光学素子と、円状に並べられた多数の小型プロジェクタを使用。これらの組み合せによりテーブルの上に置かれた物体が放つはずの光の状態を再現し、テーブルの周囲上方に円環状の立体映像が観察できる領域を創り出すことに成功した。

試作したテーブル型裸眼立体ディスプレイ「fVisiOn」による立体映像(中央にはウサギの立体映像、周囲には実物である折り鶴や書類、ペンなどを配置)

立体映像の観察に適した領域を視域と呼ぶが、今回の類似方式では、視域はディスプレイに対して真正面の数十度の範囲か、ある特定の領域にしか形成できなかった。今回、開発された技術では、ディスプレイの斜め上方の周囲に円環状の視域を形成。これにより、円環上視域に両眼があれば、立体的な映像がテーブル中央に裸眼で観察できるようになった。

類似方式による視域と今回開発した技術方式による円環状の視域

また、これらの仕組みはすべてテーブル面よりも下側に配置されており、テーブル上には一切の装置を用意する必要がない。そのため、紙の資料や実物の模型の隣に立体映像を並べて表示したりすることなども可能だ)。

今回の原理検証システムでは、立体映像を再生するためのスクリーンにあたる円錐型の光学素子を試作、96台の小型プロジェクタを用いることで、理想形態の1/3にあたる周囲120°ほどの範囲から観察可能な立体ディスプレイとして実装することに成功した。同試作機では、高さ5cmほどの立体映像が、テーブルの中央に置かれたオブジェのようにテーブル面から飛び出して立体的に見える。

再現された立体映像をさまざまな方向から観察した例。上からティーポット、おもちゃのアヒルのCGを再生し、正面とそこから±60°程度の左右の位置から撮影した例。一番下はCGのウサギと実物の折り鶴を一緒に撮影した例

なおNICTでは、今後は、全周360°からの観察へ向けたシステムの拡張や、再生される立体映像の画質向上(像の鮮明さの改善、モアレの除去)、より大きな立体映像の再生などに取り組む予定としている。

また、同技術は、周囲上方からの観察に最適化した方式であるため、従来のテーブルを囲んで行うコミュニケーションの支援だけでなく、俯瞰する場面が多い地図を用いた作業(都市設計、交通整理、防災など)、インフォームドコンセントや手術の事前検討など医療での利用も期待できるほか、将来的に装置の大型化ができれば、競技場のフィールドを立体的に再現して周囲の客席から観戦することも可能となるとしている。