高度情報化社会と教育の関係を模索する動きが続いている。和歌山県は5月28日、小学校におけるICT(Information and Communication Technology)活用授業について、広く共有可能な実践モデルの確立を目指すプロジェクトを発表した。放送大学、インテルとの産学官連携のもと、教員や児童のICT活用能力育成に必要な道を探る。

写真左より、山口裕市 和歌山県教育委員会教育長、中川一史 放送大学 ICT活用・遠隔教育センター教授、宗像義恵 インテル取締役副社長。和歌山県の教育おけるICT利活用で3者が提携、合意の覚書が交わされた

本プロジェクトは、和歌山県教委員会、放送大学 中川一史研究室(ICT活用・遠隔教育センター教授)、インテルの3者協力により、小学校を対象として2010年6月から本格的にスタートする。情報系授業にとどまらないICT利活用の道を模索するとともに、教員育成システムや各種評価指標の確立を目指すほか、他県でも共有できるモデルとして展開することを見据えるなど意欲的な試みとなる。

協力校は、いずれも山間部に建つ有田川町立修理川小学校、同西ヶ峯小学校、北山村立北山小学校、那智勝浦町立色川小学校の4校。各校合わせて50人弱の生徒に対し、インテル製教育用ノートPC「クラスメイトPC」を一台ずつ支給、このPCや電子黒板を活用しながら授業を進めていくことになる。授業内容の指導などを行なう中川教授は今後の方向性として、国語や算数などの授業、共同学習でのICT利活用のほか、デジタル新聞制作や映像制作、プレゼンといった「自分たちの思いを伝える活動」にICTを取り入れ、表現力を養うことも考えていきたいと述べた。また、山口裕市 教育委員会教育長は、山間部に小学校が点在する和歌山県の事情を説明。「(山間部の)学校のネットワークを作っていくことも課題」とし、学校間交流にICTを活用する考えも示した。

生徒ひとりに一台ずつ「インテル クラスメイトPC」を支給。学習支援ツールなどもインストールされている。内蔵Webカメラを使った学校間コミュニケーションなども可能

表現力を養う学習としての"伝える活動"にもICTを活用していく

実際に教壇で指導にあたる教師に対しては、インテルが全世界で展開する教員向けの情報教育支援プログラム「インテルTeach」を提供する。同社は、高度情報化社会で求められるスキルを「21世紀型スキル」と定義し、課題解決能力やコミュニケーション力などを養う教育の重要性を訴えている。インテルTeachは、生徒がそうしたスキルを効果的に習得するための指導法を学べるプログラム。すでに日本国内でも3万5千人以上の教員が受講しているが、本プロジェクトを通じて、より日本の教育現場に則した形として取り入れていくとしている。

ICT授業モデルの構築や協力校への指導、授業内容や教員育成プログラムへの評価は、中川研究室を中心とした「T21プロジェクト」の実行委員会を通じて行なわれる。

また、本プロジェクトには、地場IT産業の振興という狙いもある。業務面を含めて情報化された学校では、専門家によるITサポートが必要となりつつあり、今回はその役割を地元IT企業が担う。「地元のIT企業とネットワークしながら、地場産業をサポートしていくストラクチャ(仕組み)を作りたい」(宗像義恵 インテル取締役副社長)。

和歌山県内ではこれまでにも教育におけるICT利活用を積極的に進めてきたが(※)、今回の産学官によるプロジェクトは、学校教育の一側面でのICT利活用にとどまらない点で他の試みとは異なる。高度情報化社会に適した教育体制を構築するために、複数校の生徒と教師が同時に新たな授業に取り組むだけでなく、地場IT産業など地域社会も巻き込んだ試みとなる。未知数の部分もあり、中川教授は「ゼロからスタートするのと同じ」と話す。一方、各校の授業に特色が芽生えてくる可能性もあるなど、プロジェクトへの大きな期待感も示している。

※和歌山市とマイクロソフトによる学校の情報化に関する提携(2007年)、県内教員のICTスキル向上を目的としたeラーニングシステム「ICTスキルアップオンライン」(マイクロソフト)の導入(2008年)、総務省のユビキタス特区事業として和歌山市内の小学校でiPod touchと専用アプリを活用した学習の検証(2010年)など。