Web 2.0 Expoで米Adobe Systems CTOのKevin Lynch氏の公開インタビューが行われた。約1週間前にApple CEOのSteve Jobs氏がiPhone OSでAdobeのFlashテクノロジを採用しない理由を説明する書簡「Thoughts on Flash」を公開し、その内容が今も大きな論争となっている。そうしたタイミングから約15分のインタビューは、Jobs氏の指摘に対するAdobeの反論の場と化した。AppleがiPhone OSのネイティブアプリに開発者とユーザーをしばり付けようとする現状を、Lynch氏は「19世紀の鉄道会社」「まるで"1984"のようだ」などと批判した。

Adobe Systems CTOのKevin Lynch氏

HTML5にも最高の開発環境を提供

書簡の中でJobs氏は、Flashのバッテリ消費、性能、セキュリティ、ユーザーインターフェイスなどがモバイルデバイスでの利用に適さないと指摘。さらにクロスプラットフォームアプリが、AppleがiPhone OSで実現しようとしている先進的なモバイル・プラットフォームの足かせになるとした。またWeb標準であるHTML5への移行を推進するためにパソコン時代の産物であるFlashには止まらないとしたことで「HTML5対Flash」のような構図が生じている。

Web 2.0 ExpoのiPadアプリのセッションで「HTML5がFlashに取って代わると考えているか?」というアンケートが採られたところ会場の4分の3程度がHTML5の将来性を支持した。こうしたFlashの将来性に不安に抱き始めた開発者の心情を酌み取ったのだろう。Lynch氏への最初の質問は「HTML5にAdobeはどのように対処するか?」だった。

Lynch氏は「Adobeはユーザーの表現に役立つテクノロジを採用してきたし、これからも採用していく」と述べた上で、HTML5を「(Webに)大きな前進をもたらすテクノロジ」と評価し、HTML5においても最高の開発ツールを提供することを約束した。Jobs氏はFlashをパソコン時代のテクノロジとしたが、Lynch氏に言わせればFlashはHTMLが伸び悩んだ時期にダイナミックなWebを可能にした技術である。Flashが存在したことで、HTML停滞の谷間に落ち込むことなくインターネットの革新が継続されてきた。Flashには現状のHTMLでは埋められない要素も含めてまだまだ進化の余地があり、これまでHTMLと"共存共栄の関係"を築いてきたFlashの役割を今後も強化していく考えを示した。

その上で「これは技術的な議論ではなく、"HTML5対Flash"よりも大きな議論、つまり"選択の自由"に関する問題に発展している」と指摘した。AdobeはFlash CS5に「Packager for iPhone」というFlash開発者がiPhone用ネイティブアプリを構築する機能を追加してiPhone OSを含むクロスプラットフォームアプリ開発を実現しようとした。ところが、AppleがiPhone OS 4 SDK (ベータ)のライセンス規約を変更したことで同機能の利用が困難なものになった。「われわれはテクノロジでの勝負を挑んでいるのに、Appleは法律の土俵に逃げ込むだけで勝負にならない」とLynch氏はあきらめ顔。AppleはFlashやクロスプラットフォームアプリのパフォーマンスや機能の不足を指摘しているが、こうしたAppleの対応はきちんと動作しないことではなく、動作することをAppleが恐れているあらわれだとした。

Flashが極端にデバイスの機能を制限するならば問題だが、マイクやカメラ、ローテーションなどを例にFlashはモバイルアプリ開発者のアイディアを形にするのに十分な機能を備えているとアピールした。Jobs氏から批判されたタッチ操作対応についても、開発中のFlash 10.1ではデバイスがサポートする入力ポイント数の違いに関わらず、各デバイスに適したマルチタッチ操作を実現するという。Adobeは展示会場のブースで、NVIDIAのTegraを搭載したAndroidベースのタブレット・プロトタイプでFlash 10.1/ AIR 2のデモを披露していた。


↑動画解説 NVIDIAのTegraを搭載したAndroidベースのタブレット・プロトタイプによるFlash 10.1/ AIR 2のタブレット操作デモ。モバイルデバイス向けは今年後半のリリース予定であるため基本的な操作に限られていた。


↑動画解説 Windows 7で動作するDell Latitude XT2でのFlash 10.1/ AIR 2のタブレット操作デモ。今年前半中に登場する予定のPC向けでは、ページ移動のほか、タッチを使ったアニメーション操作、マルチタッチによる高解像画像の拡大/縮小、ページ内動画再生など、最終版を予想できる操作を体験できた。