全3回に渡り、仏ノール・パドカレ地方のデジタルクリエイター事情を紹介していく本レポート。前回は今、フランスのクリエイターがなぜ北に集結していっているのかを紹介した。今回は、北フランスを支える様々なデジタルカンパニーを紹介していく。

仏ノール・パドカレ地方取材中は、リールを中心に複数のデジタル系コンベンションが同時開催されるイベント週間だった。ここでは、スタートアップ企業の展示会である「e-creatures」に参加したクリエイター達の声をお届けしよう。

「e-creatures」で出会った、北仏を支えるデジタルカンパニー

STEREOGRAPH(ステレオグラフ)

おもに建築・不動産関係のグラフィックやCG映像を制作している。建築物の映像とは、建築前のデザイン段階で、デザイナーの意図を伝えるために用意する、プレゼンやコンペ用のムービー。10年ほど前から、大きな建築プロジェクトがある際には欠かせないものとなっているそうだ。代表のクリストフ・ロベール氏(左)は、SUPINFOCOMの卒業生

CCCP(セーセーセーペー)

ゲーム制作会社。医療系のシリアスゲームの受託制作が中心。子供が自分の症状を伝えるのを助け、服用する薬の種類までを管理できるシリアスゲームをFlashで制作し、この地域の病院に設置したほか、数々の医療系シリアスゲームを制作(左)。また、Flashミニゲームサイト「CCCPlay」を米国向けに自社で運営しており、昨年は収益の40%がCCCPlayでの広告収入だったという(右)

「シリアスゲーム」って何?

ゲームというと遊びを連想するが、ゲームというメディア自体を遊び以外のシリアス(まじめな、真剣な)な局面で利用しようという考えがシリアスゲームだ。日本ではまだ定着していないが、欧米では大きな盛り上がりを見せていて、すでに教育や医療、公共事業など、さまざまな場面で活用されている。ゲームの形をとることで、向き合いにくい問題やわかりづらい情報を適切に届けることができる。日本では、コナミが日本語版を開発した国連世界食糧計画(WFP)の「フードフォース」が広く知られている

3D duo(トロワデ・デュオ)

ゲームの開発から販売までを手がける。企業や政府機関のためのシリアスゲーム、ソーシャルゲーム、アドバゲームなどを中心に開発してきた。現在は2010年2月にリリース予定のオンラインゲーム「leelh」を開発中(左)。1年半に設立された22人の会社だが、このイベント中に6人を採用予定とのこと。取材中も隣で面接をしていた(右)

HORS FORMAT(オー・フォーマ)

Peek a Boo!(ピーカーブー)

WebサイトやTVCM向けに、CG・実写映像を制作する。最近はおもにWebを中心に、3DCGを使ったインタラクティブな映像合成を手掛けている。現在、SFR(フランスの大手通信会社)のために携帯電話を仮想空間で操作・閲覧できるインタラクティブ3Dコンテンツを制作中。Webと、店頭のタッチディスプレイで展開する予定とのこと(左)。モーションデザインを中心に、印刷、Webなども手掛ける。ヨーロッパ、特にフランスでは、企業が自社サイトに小さなFlashゲームを設置する動きが活発だという。それを受けて、FlashゲームおよびiPhoneゲーム制作のスタジオ「Beep Beep Studio」を設立する準備を進めている(右)

In Situa(アン・シチュア)

土地区画整理のための3DCGを作る会社。都市計画、道路整備、地域施設など、大規模な公共機関をおもに手掛けている。制作した3DCGは、静止画や映像、インタラクティブな仮想空間などの形で、地域住民や自治体、投資家に事前のプレゼントして使われる。社員は8人

欧州若手クリエイターたちのコンテストイベント「e-magiciens」

会期中に行われたイベントでもっとも盛り上がっていたのが、デジタル映像コンテストを中心に、インタラクティブ技術の研究発表やFlash制作バトルが開催されていた「e-magiciens」。デザイナー、アーティスト、開発者、学生が世界中から集まり、交流の場となっていた。また、若手作家のCG映像作品の上映会では、日本からの招待作品が数多く参加。2Dと3D、時には実写を合成した作品が特に人気を集めていた。実はこの上映会、昨年9月に京都で開催された「CGアニカップ日仏親善試合」にて、e-magiciensの選抜作品を上映したことを受けて、今度は逆に日本の作品を紹介する運びとなったもの。CGアニカップを企画したドーガの鎌田優さんは、「アニメは言葉の壁を越えやすいので、国際展開できる」と話す。同じく会場に招待されていたオフィスアッシュの伊藤裕美さんは、日本の学生のアニメ作品を海外に紹介する事業に携わる。「海外はCG育成人口が少ないので、活躍の場が多い。日本人は技術的に優秀だが、産業との結びつきが弱い。海外に進出するのも一つの道」と語っていた。

研究者やアーティストによる、デジタル技術・作品の展示も。写真は、地球儀のインタフェースを手でブラウジングできる作品「Maisons en terre(地球の家)」。赤外線カメラで手の動きを検知している(左)。イベントの最中に、会場付近でフランスのデジタル経済開発担当大臣コシウスコ・モリゼ氏が新たなデジタル映像拠点施設の計画を発表していた(右)

次回は、ノール・パドカレ地方のデジタル制作会社3社を訪問した際の様子をお届けする。

(執筆:Web Designing編集部 Web Designing 2010年2月号掲載)