2006年6月12日に設立されて以来、「長期投資」を掲げて、既存の投資信託業界と一線を画す商品を提供してきたセゾン投信。2009年12月には、運用資産総額が300億円を突破し、2010年度中の黒字化も視野に入っている。同社代表取締役社長の中野晴啓(なかの・はるひろ)氏が目指すものは何か、業界の"風雲児"にインタビューした。

既存の投信業界に「ある種の憤り」

――2007年3月15日の営業開始以来、約3年が経過しましたが、「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」と「セゾン資産形成の達人ファンド」の第3期の決算を終えた感想をお聞かせください。

セゾン投信 代表取締役社長の中野晴啓(なかの・はるひろ)氏

純資産残高が300億円、顧客も3万7,000人を超え、3年前に描いていた「理想の形」「最高の形」にかなり順調に近づいてきました。一番胸を張って言えるのは、(営業開始後)35カ月をすぎて、ずっと資産流入超が続いていることです。その理由としては、5,000円から始めることができる「定期積み立てプラン」を選んでいる顧客が多いことが挙げられます。セゾン投信では62%以上の顧客が定期積立プランを活用しているのです。キャッシュフローは当初から一番大事にしていたことで、そのおかげで、(2008年秋の)リーマン・ショックをしっかり乗り越えることができました。

――「長期投資」という、中野社長の考えが一般の顧客に理解されたということでしょうか?

今の投資信託業界は、ほぼ全てのファンドが「多分配型」で、毎月(配当金を)分配しています。当社は、年1回の分配で、それも嫌々やっています(笑)。現状は無配ですが、今後も出来る限り配当を抑え、それも再投資にあてます。財産づくりは複利で増やしてこそだからです。今の日本の中においては稀有な存在と言えるのではないでしょうか。こうしたことを行っているのは、独立系・直販のファンドのみで、今の業界の中では非常に独自の立ち位置だといえます。

――あらためて、「長期投資」とは何でしょうか?

「将来に向けた『生活者』の財産づくりをする」ということです。つまり、資産形成を目的としたファンドであり、こういう存在は世の中に大変必要とされています。そうした意味では、既存の投信業界には、正直「ある種の憤り」を抱いていて、それがモチベーションになっています。

――なぜ、既存の投信業界に「憤り」を抱いているのですか?

投資信託というのは、小さなお金でも分散して投資が可能で、これから財産作りをしようという人にとって、非常に便利な道具なんです。お金をたくさん持っていなくても、30年、40年をかけて長期投資を行うのが本来の投資信託の役割です。ですが、既存の投信業界のビジネスモデルは、すぐ結果が見えるものを売りたいというものなんです。例えば「今はブラジルだ」と言って、わーっとお金を集める。ですが、これは長期投資でもなんでもないんです。

――どうしてでしょうか。

ぐるぐるお金を回していくのが商売で、売るたびに得られる手数料を獲得するのが目的になっているからです。手数料は3%のことが多いですが、100万円売って3万円もうける。これを繰り返す「回転商売」をやっているんです。投資信託を設定したら、どーんとお金を集める。「予定通り集まりました。では次のもの」というわけです。これでは長期投資という発想は出てきませんし、そんなことを(他の事業者に)やられたら困るわけです。

日本の投資信託の期間は大体3~4年で、同じお金がぐるぐる回っているだけです。顧客も団塊の世代以上であることが多く、そうすると、(長期投資とは)観点が違ってきます。そこで、だったら自分で長期投資を提供する会社を作ろう、それも直販で、銀行や証券会社が売るものとは異なるものを提供しよう、と思うに至ったんです。

独立系・直販の投信で「新たな産業」目指す

――そうした思いが、独立系・直販のセゾン投信を立ち上げるきっかけとなったわけですね。

「独立系・直販の投信で新たな産業を目指す」と熱く語る中野氏

さわかみファンドが、一つのきっかけとなりました。私達もある種の影響を受けてきて、密接な関係を保っています。他の鎌倉投信などとも、非常に密接な支えあいをしながら、お互いに伸びていこうとしています。今年4月と5月には、独立系・直販の各社が集まったイベントを大阪・東京でそれぞれ企画しています。

――独立系・直販であることの意義は何でしょうか?

まず、既存の金融機関に満たせないニーズに応えるというのが、共通項でしょう。また、直販であることで、お金の質を高いレベルに維持できることも、大きな特徴です。販売を銀行などに委託していては、お金の質は維持できません。お金の質の高いファンドは、普通に運用していさえすれば、いい運用成績が維持できるのです。ネットを活用することで、コストをぎりぎりまで抑えることができるのも利点です。

――今後どのようにして、「独立系・直販」の存在感を高めていく予定ですか?

以前、電話業界に「携帯電話」というカテゴリはありませんでしたが、携帯電話の普及につれ、「携帯電話」というカテゴリができ、さらに、固定電話とは異なった「ケータイ」という全く違うような業界を形作りました。私は、この「ケータイ」と同じ流れを作りたいと思っています。つまり、独立系・直販の投信企業が、新たな産業になるようなビジネスモデルを想定しています。

――「新たな産業」ですか。大きな目標ですね。

投信業界のスタンダードのイメージは「肉食」だと思いますが、私は「草食系投信」を目指しています。独立系・直販の結束を高め、情報と成果を共有し、共存・共栄することが目標です。既存の投信業界の規模は60兆円ほどですが、それをどれぐらい取りたいか、という問いは間違っています。この60兆はいわば20世紀から続く"独自の資金"とも言え、これからこれを取っていくというのは、広がりを欠くことになります。そうではなく、日本に存在する790兆円の「預貯金」を動かすことこそ、我々のミッションであると考えています。

――預貯金を動かすことで、「新たな産業を作る」ということでしょうか。

預貯金が動かないために、日本の経済の停滞が続いているのです。例えば、ゆうちょ銀行で集めたお金が国債の購入に充てられ、コンクリート(公共事業)に投資されてしまいます。これらの、投資の世界の埒(らち)外にあったお金を動かしてこそ、我々の存在意義があるのです。そのためには私一人では限界がある、そこで、独立系・直販グループの結束が必要となるのです。

「日本のバンガード」目指す

――セゾン投信では、「低コスト」「国際分散投資」も大きな特徴です。

私個人の理想としては、米国のバンガード・グループを理想としています。同社は、会社が得た収益を手数料など顧客のコストを下げる原資にしていくことで、顧客獲得とコスト低減の好循環を生み出してきました。そのためにも、会社としての黒字化を実現していきたいと思っています。

国際分散投資に関しては、2009年はいい年でした。米国や中国での財政投入により、かなり強い回復軌道が見出されてきました。また、地球規模の経済の構造変化により、中国・インド・東南アジアなどが21世紀を担っていく源泉となってきました。これらの国々では、生活者の日々の豊かさを求めていく行動が成長の源泉で、2010年は中国で9%、インドで7%以上の経済成長が見込まれます。

――長期投資にとって、どのような意味があるのでしょうか。

長期投資家にとっては、多極的に経済成長の源泉が伸びていく中で、追い風が吹いているといえるのではないでしょうか。20年、30年、40年かけて投資をしていくことで、「誰もが財産作りをできる」環境が、しっかりと整ってきました。長期投資を行うことで、これらの国の経済成長に貢献することもできるのです。