左から曽利文彦監督と名越稔洋監督

世界レベルのクリエイターを養成するデジタルハリウッド・東京本校にて、映画『APPLESEED』や『ピンポン』、『ICHI』などの監督として知られる曽利文彦監督と、大ヒットゲーム『龍が如く』シリーズの総合監督・名越稔洋氏の特別対談が行われた。

曽利、名越両監督の単独講演後に行われた特別対談は、和やかな雰囲気でスタート。「制作上で大切にしているものは? 」という最初の質問に対しては、幼少時代から憧れた立体物への"好奇心"を挙げた曽利監督と、プロアマの機材差がない今ならではの"人間力"を挙げた名越氏。お互いの講義を例にしながらも、作品に通じる個性を感じさせる回答がされていた。

クリエイティブにおけるオリジナリティと今後

名越氏は、作品のオリジナリティは「24時間クリエイティブを考えている中で生まれる」と語る。「実際、今やらなくてはいけない作業からの現実逃避中に、別のクリエイティブのためのアイデアが浮かぶことが多いですね。新作の場合は、三振してもいいからフルスイングをする位の心意気で取り組んでいます」

シリーズ作品における前作の重圧を乗り越えることも並大抵ではないはずだが、そこは割り切っていると至って冷静。では、そんな名越氏が制作上で影響を受けるものとはどのようなものなのだろうか。「マンガやCMなど様々です。少しでもいい部分があると好きになります。なんでも"好きだ"と思ったら、口に出して言った方がいいですよ。クリエイターは『私はこれが好き』と言える人でないとだめ。人の目を気にしていたら物なんて作れないですから」

一方、曽利監督の場合、最新作である劇場版3Dライブアニメ第3弾『TO 楕円軌道/共生惑星』のクリエイティビティの基礎となったのは、長年の「『2001夜物語』を映像化したい」との想いだったという。「予算をきちんとかけ、高いクオリティで作品を制作できた嬉しさは何物にも変えられないです。ただ、原作の大ファンだけにアプローチの仕方や見せ方にはずいぶん葛藤がありました。最終的にできるだけ原作のままで進めることにしたのですが、それを貫くのも大変でしたね。タイトルだけは、僕ら世代には特別で近未来を感じた"2001年"という感覚が、今の若い人たちには伝わりづらいとのことで変更しました。でも、当時この作品で描かれた精神論などが今でも通じることは、きちんと伝えられたと思います」

その他に影響を受けた作品として、『ゴッドファーザーPARTII』(1974)や『アマデウス』(1984)などの名前があがった。曽利監督は、エンタテインメントの中にさまざまな表現が詰まった作品は、見る度に発見がありメイキング映像を見るとグッときてしまうものがあると笑う。「勉強になるだけでなく、いちファンとして楽しめるんです。お金のかかったハリウッド映画でも、裏(映像制作現場の様子)は結局一緒なんだという親近感も湧きます。これらを見ているといろんなことをやりたくなるのですが、一度は『アマデウス』のようなスケールの大きい、実写映画を撮れたらと思います」

クリエイターを目指す学生へのメッセージ

曽利氏と名越氏は、対談の最後に、映像クリエイターの卵である受講生たちに対し以下のようなメッセージをそれぞれ送った。

「みなさんは可能性を持つ人々なのだから、周囲のリアクションを恐れずに自信を持ってやりたいことをやってください。また将来的に制作現場で仕事を続いていく場合もあるので、クリエイターとして成長しあえるような仲間を作っておくといいと思います」(名越氏)、「10代は逃げている気がして辛かったのですが、逃げないようにしようと決めたら20代は急に楽になった気がします。大変だけど、そう考えてからはすべてにアグレッシブになれましたね。考える前に行動する、そのモットーは今でも変わりません。みなさんもぜひ前に出てください」(曽利氏)