以前にIPO件数激減によるシリコンバレー冬の時代についてレポートしたが、ここ最近になり幾分か状況が好転しつつある様子が見られるようになった。米Wall Street Journalの12月23日(現地時間)付けの「After Dry Year, Start-Ups Are Poised to Get Cash」というレポートによれば、資金の引き締めに走っていたベンチャーキャピタル(VC)が再び活動を再開したことで、スタートアップ企業も資金調達の難易度が下がりつつあるという。

兆候の1つは大型案件の成立だ。今年11月、SNS向け広告とソフトウェアを開発するRockYouという企業に5200万ドル、オンライン教科書レンタルサービスのCheggという企業に5700万ドルの投資が行われている。Chegg CEOのOsman Rashid氏は今回の増資ラウンドの締結に1ヶ月程度しかかかっておらず、2005年の設立からこれまでに1億6000万ドルの資金調達に成功したという。同社は現在100名のフルタイム従業員を抱えており、来年は調達した資金を元手にさらなる増員やサービス対象大学を拡大していく計画だ。VC側も活動を活発化させており、資金提供者とのミーティングを続けているほか、投資先IT企業の来年2010年のIPOに向けた作業を進めている。Redpoint VenturesのGeoff Yang氏は「(2009)年が始まったときはこれほど悪くなると予想できなかったが、いまは明らかに楽観的な見通しだ」と業界の展望について語っている。

VC業界が投資案件の縮小による資産保全に入ったのは2008年末のこと。こうしたトレンドを受け、2009年はシリコンバレーにとって非常に厳しい年となった。調査会社VentureSourceのデータによれば、2009年第1四半期から第3四半期にかけてVCらがスタートアップ企業に投資した金額は146億ドルで、2008年同期の250億ドルからは大幅に減少している。第4四半期には幾分か回復が見込まれるものの、2008年全体の310億ドルの水準には遠く及ばないとみられる。

またスタートアップ企業が株式公開(IPO)によって市場から資金を調達することが、これら企業に投資したVCの資金源の1つになっているが、2009年第1四半期から第3四半期までの期間にVCから資金注入を受けたスタートアップ企業がIPOで調達した資金の総額は、わずか6億8340万ドルだった。2008年の5億5060万ドルから比べれば増えているものの、2007年が68億ドルだったことを考えれば、やはり全盛期と比較して大きく乖離している。

スタートアップ企業がIPOなどによってVCへのリターンを返すタイミングを"Exit"と呼ぶことがあるが、IPO以外のExitの手段としてはほかに大手による買収や同業他社との合併などが挙げられる。2009年の3四半期分のケースでは買収・合併によるリターン額は91億ドルで、こちらも205億ドルだった2008年に比べれば大きく減少している。だが少しずつ好転の兆しが見えつつあるというのが前出のYang氏の意見で、例えば同氏の属するVCの投資案件では、先日のLogitechによるLifeSize Communicationsの4億500万ドルでの買収のほか、セキュリティアプライアンスの開発・販売を行うFortinetのIPOなどの成功事例があった。

だがYang氏のように楽観的な見通しがある一方で、依然として状況は厳しいという見方もある。例えばLiveRailのエグゼクティブバイスプレジデントNiccolo Pantucci氏は「ドア自体はオープンだが、VCは依然として慎重な姿勢のままだ」と指摘する。一方のVC側にあたるGranite VenturesのマネージングディレクターStandish O'Grady氏も「今年は(自身の所属する)特に慎重に動いている」と述べつつ、案件を少しずつ増やす一方で、審査期間は以前よりも余分に費やして見極めを行っていると説明する。完全な引き締めモードからは解放されたものの、より選別傾向が進んでいると見るのが正しいかもしれない。以前のようなIPO狂想曲の事態がシリコンバレーに戻ってくることは、まだしばらくは難しいだろう。