「一応、Video LAN Projectの代表です」というJB Kempf氏。実は、ひらがなとカタカナが読める

オープンソースのメディアプレイヤー「VLC Media Player」。7月8日、バージョン1.0が公開されるや、最初の1週間でダウンロードは650万回を越えた。「1台しかないサーバがダウンしないようにするので精一杯だった」というのはVideo LAN Projectの代表者 "JB Kempf"ことJean-Baptiste Kempf氏だ。フランスの大学で生まれた同プロジェクトは、学生プロジェクトの良さを残した有志集団だ。

10月、ドイツ・ミュンヘンでNokia(フィンランド)が開催した「Qt Developer Days 2009」にて、Kempf氏に話を聞く機会を得たのでここに紹介しよう。

--VLC Media Playerについて教えてください。どうやって生まれたのでしょうか?

フランスの工科大学であるEcole Central Parisで1996年にスタートしました。当時2年生が担当したプロジェクトで、ビデオストリーミングの事例を作るというのが学校から課せられた課題でした。

1998年、プロジェクトを最初からやり直すことになりました。モジュール構成にして、オープンソースにするためです。2001年、大学よりVLC(Video Lan Client)とVLS(Video Lan Server)をGPLで公開してよいという許可が下り、オープンソースプロジェクトとなりました。VLSは後になくなります。

その後、WindowsとMacに対応したところ、注目されるようになりました。開発者も集まり、現在は当時の学生をコアに、ドイツ、イタリア、オランダなど、欧州の開発者が参加しています。

現在対応しているOSは、Windows、Mac OS X、Linux、UNIX、Solaris、Syllable、BeOS、Windows CE、Maemo、QNXなど、アーキテクチャはx86、x86_64、PowerPC、ARM、MIPS、SPARCなどです。携帯電話の対応は公式ではありません。

--バージョン1.0のリリースは大成功となりました。

バージョン番号が混乱を招いており、ユーザーに最新版を使ってもらうために1.0にしたまでです。われわれは皆、ボランティアなのでサポートの時間がないのです(笑)。

1.0では、UIを改善し、対応するコーデックの種類を増やしました。Blu-rayは再生できませんが、Blu-rayコーデックは再生できます。圧縮ファイルをサポートし、ZIPファイルを解凍せずに再生可能となりました。拡張機能も増えています。You TubeのURLをコピー&ペーストするとVLCがYou Tubeにアクセスしてビデオを再生する機能もあります。

これは、クロスプラットフォーム対応強化のため、2006年にQtに移行したことが大きく関係しています。

ダウンロード数だけでみると、0.8.6は1年半で1億1,000万回、0.9は8カ月で7,000万回、1.0は最初の1週間で650万回、1カ月で1,500万回となりました。ダウンロード数だけでみると、「OpenOffice.org」「Firefox」に次いで3番目に人気のオープンソースソフトウェアです。ユーザー数は8,000万人と推定しており、世界のPCの5%に入っているという試算もあります。

1.0の成功には驚きました。われわれはプレスリリースなどの広報活動をしないので、まったく予想ができませんでした。公開から最初の1週間、私の仕事は1台しかないサーバがダウンしないようにすることでした。

--今後、どのような機能強化を予定していますか?

SQL Liteベースのメディアデータベースのサポートがあります。コアを再度書き直し、高速化することも考えています。Firefoxの拡張機能のようなインタフェースの拡張も考えています。You TubeやDaily Motionの統合も実現したいのですが、それだけの時間があるかどうか(笑)。

--モバイルに公式に対応しない理由は?

Maemo向けポーティングは、端末がないのでインタフェースが書けません。Windows Mobileも同じです。iPhoneは、Appleから承認が得られなかったのでリリースできません。Androidはネイティブコードが動かないので、対象にしていません。

--Qtを採用したのはどうしてですか?

それまでWxを使っていましたが、Windowsでの見栄えがよくなかった。

そこでQtを検討したのですが、クロスプラットフォームでオープンソースとの互換性があるし、アジアの言語にも対応できます。

ポーティング作業は2007年より開始しました。UIはやっかいで、誰もがUIに意見を持っているが、だれもやりたがらない(苦笑)。

ともかく、結果として、Qtへの移行は大成功となりました。多くのユーザーは新しいUIに満足しているし、コードもシンプルになりました。個人的には、コーディングよりもどうあるべきかにフォーカスできる点が非常に気に入っています。

動作中の「VLC Media Player」。モバイル対応は当分先になりそうだ

--非営利団体「Video LAN Project」について教えてください。

2008年に非営利団体にすることに決定しました。それまで、正式ではない"アソシエーション"で、サーバもEcole Central Parisにあるままでした。サーバや寄付の管理などを考えると、正式な組織が必要と考えたからです。今年4月から非営利団体となりました。

Video LAN Projectには、VLCのほかにもたくさんのプロジェクトがあり、Mozilla Foundationのようなものといえます。

違いは売上です。われわれは全員、ボランティアとして参加しています。フルタイムでプロジェクトを進める人はいません。昼間はそれぞれの仕事があり、夜に開発を進めているのです。私は今日、会社を休んでいます。予算源はWebサイト経由で集まった寄付金のみで、年間4,000ユーロぐらいですね。これでネットワークとサーバの代金が払えます(笑)。広告を入れることも考えましたが、アドウェアやスパイウェアの問題からやめました。

現在、ハードコアの開発者は6人ぐらいで、開発チームは12人程度。開発に関係している人は30人ぐらいです。欧州が中心で、アジアの開発者がいません。日本、韓国、中国で人気のようなので、これはちょっと問題だと思っています。フィードバックが分からないからです。わたしたちチームは、もっとアジアのユーザーとコミュニケーションしたいと思っています。