"フロー"によって不要な帳票を洗い出す

株式会社システムインテグレータ 代表取締役 社長 梅田弘之氏

梅田氏は、帳票開発は「まずは帳票の数を減らしたいという目的があるため、基本的な考え方は"事業仕分け"と同じ」とし、開発に着手する前の現行出力の棚卸し(見直し)の重要性を訴えた。

事前のユーザーに対するヒアリングの際は、単に帳票を「使っているか?」と問いかけるのではなく、「本当に使っているのか?」「どのような目的なのか?」といったことまで掘り下げなければならないという。

これは梅田氏も「痛い目に遭った」という実体験に基づくアドバイスだが、ユーザーが「使っている」と言う帳票でも、実際にはほとんど使われてないことや、逆に「使われていない」と言う帳票が、かなりの頻度で使われているというケースがあるということがその背景にある。

ここで重要になってくるのは業務フローの作成だ。梅田氏は自社の社員に対しては全員に業務フローの作成を義務付けているとのことだが、「業務フローを作成すれば、自ずと必要なもの、そうでないものが見えてくる」という。

帳票の"開発"が不要なことも

必要な帳票が見えてきたら、「"どれ"で出すのか?」といった出力方針の決定を行う。梅田氏は「これは各社各様で構わない部分」としつつ、業務フローが確立され、経費伝票までもがペーパーレス化されている自社の事例を説明した。

梅田氏によると「帳票の基になるデータには、プロジェクトの進捗管理などに使われる"共有系"のものと、予算・売上管理などに使われる"分析系"のものがある」とのことだが、同社の場合、分析系の出力には(Excelアドオンの)BIツールを採用し、実際の経営会議の場などでも活用しているという。

共有系のデータについては、「客先に提示する場合は"帳票"が必要になることもあるが、画面をそのままプリントすれば済む(=わざわざ帳票を"開発"する必要がない)ものも多い」と指摘。「PDFなどフォーマットに関する選択肢もあるため、簡単に答えを出せるものではない」としながらも、帳票開発時には「"画面"か"帳票"か?」ということも検討しなければならないと語った。

なお同氏は、帳票開発を「大変ではあるが、ここまでが最も"やりがい"のある仕事」と表した。

帳票開発は"結婚"のようなもの

晴れて実際の開発作業(本番)に移行できたら、今度はBIツールの導入有無や開発ツールの選定作業に入る。「帳票開発は結婚のようなもの」と語る梅田氏の真意は「後が大事」ということにある。

ヒアリングや業務フローの分析によって「必要」とされた帳票でも、運用段階に入ると使われなくなってしまうことも少なくない。このようなムダを避けるには、「利用促進・フォロー・改善といったプロセスを、帳票開発の工程の1つとして盛り込んでおくべき」と梅田氏は主張する。

梅田氏はとりわけ、多くの帳票開発案件で出力・分析対象のデータとなるログについて「利用状況の把握」を重視しているという。「監査や証跡の保管、検証はユーザーの関心の対象になりやすいが、これが"具体的にどのように利用されているのか"となると、目が行き届かないケースが多い」そうだ。これが見過ごされると、帳票の目的が「活用」ではなく「存在そのもの(あればいい)」になりかねないため、注意が必要だという。

"落とし穴"にはまらないために

梅田氏は「帳票開発における落とし穴」と題し、主にテスト段階でのトラブル対処方法をいくつか紹介してくれた。

帳票開発のテスト段階では、改ページ、文字切れ、値の相違といった細かなものや、アクセス制限、パフォーマンスの問題が顕在化することになるが、このような問題の多くに共通する解決手法は、やはり「設計の段階でしっかりと要件を盛り込んでおくこと」だという。

また梅田氏は、開発者側の問題として「少ないサンプルデータによる出力テストで済ませようとするのではなく、必ず顧客から実データを入手してテストしなければダメ」という基本的な事項に加え、たとえテスト担当者が「テストしました」と言ったとしても、これを鵜呑みにすることの危険性を指摘した。

梅田氏は「最近の若い開発者は画面だけを見てテストしたつもりになっている人が多い」と感じているそうだが、やはりきちんと出力して確認しなければテストの意味がないという。「どのようなデータでどのようにテストしたのかということまで踏み込んで確認しなければならない」とテストの重要性を訴えて、同氏は基調講演を締めくくった。