金星を知ることで地球を知る

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月27日、同機構の相模原キャンパスで、2010年度の打ち上げが予定されている金星探査機「PLANET-C(あかつき)」を報道陣に公開した。

"あかつき"は金星の大気の様子を主な探査目的とした探査機。現在、諸々の試験を終え、熱真空試験を控えた段階にあり、これを終えると、組み立ての後、種子島へ輸送、ロケットに搭載され、打ち上げとなる。

JAXA研究総主幹・宇宙理学委員長 金星探査機あかつき衛星主任の中村正人教授

金星を観測する意義について、JAXA研究総主幹・宇宙理学委員長 金星探査機あかつき衛星主任の中村正人教授は、「天気予報は2、3日先までであればまあまあ当たるようになった。しかし、地球全体を取り巻く気象形態は、自転周期や太陽からの距離、大気組成などの各種パラメータで、どのように決定されているのかは良く分かっていない。長期的な気候変動についてはなおさらなこと」とし、こうしたパラメータを調べるためには、他の惑星のデータなどと比較することが重要となることから、地球の気候が宇宙においてどういったものであるのかを科学する「惑星気象学」の推進により、地球の過去、そして未来の気候がどうなるのかを研究していく必要があると語る。

他の惑星の気候などと地球の気候を比較することで、惑星学的アプローチからさまざまな気象変化の予測が可能となる(手前は解説を行う中村教授)

"あかつき"が探査に向かう金星は直径が地球とほぼ同じ1万2,104km(地球は1万2,756km)、質量は地球の0.8倍、密度は地球とほぼ同等の5.41(地球5.51)、赤道重力は対地球で0.92と非常に似通っていることから、地球の双子惑星とも称されてきた。しかし、太陽からの平均距離が地球が1.496×108kmに対し金星は1.083×108kmと近く、太陽からの熱入力は地球の2倍であり、現在の火星には海が存在せず、二酸化炭素の大気により、気温は460℃、90気圧の大気条件となっており、形は似通っていても、その中身はまったく異なる姿となっている。ただし、過去、海(水)が存在した可能性がある証拠として、高地部での花こう岩に似たスペクトラムの確認もあり、その水がどこに消えたかについてのさまざまな仮説が打ち立てられているほか、全長約6800km(ナイル川より100km長い)の太陽系最長のチャネル「バルティス・バリス」も"河川タイプ"であり、水のようなものが流れた可能性もある。

現在は過酷な大気の金星もかつては水が存在していた可能性がある

太陽系最長の河となる可能性もある「バルティス・バリス」

ただ、金星が地球と異なるのは大気のみならず、自転周期が地球1日に対し243日(しかも逆回転)と遅いにも関わらず、その上に存在する大気は全層で西向きに自転速度よりも高速な4日で1周程度で吹いており「スーパーローテーション」と呼ばれている。土星の衛星タイタンにもスーパーローテーションは生じていることが判明しているが、この発生メカニズム自体は判明しておらず、子午面循環(ハドレー循環)に伴う上昇流が赤道域で角運動量を運び上げ、極向き移流で中高緯度に押し流されていき、それをなんらかの波や循環による大規模擾乱が生じているといった説もあるが、地球からの金星観測では夕方もしくは明け方のみに限られてしまうことから、長期的な定期観測は難しいのが実情であった。また、空間分解能が低い、昼側に対応することによる夜側でのコンタミネーションの発生といったことも問題になっていた。

スーパーローテーションの説明理論の1つ(このほかにも、雲層が太陽光で加熱されるために励起される波が上下に伝わって大気を加速する、低高度で励起されて上向きに伝わる波が大気を加速する、といった説などがある)

こうした問題から"あかつき"は金星の300km~8万kmを周回し大気の様子を観測することで、より詳細なデータを得ることを目的としており、「地球で行われている気象観測を金星でも行う」と中村氏はイメージを説明する。

"あかつき"の軌道周期は30時間で、金星の同じ面の観測を続けることが可能