シニア層のICT利活用。その促進に取り組む佐賀県が、マイクロソフトと地域活性化協働プログラムを締結してから9カ月。早くも成果があらわれている。同県でCIO(最高情報統括監)を務める川島宏一氏に、両者の取り組みについて話を伺った。

川島宏一 佐賀県 最高情報統括監(CIO)

佐賀県はこれまでCSO(※)によるシニア向けPC講座の支援に力を入れてきた。その動きの強化やトレーナー不足の解消、教えるスキルの向上などを目的に、今年2月からマイクロソフトと提携して地域活性化協働プログラムをスタート。ICT利活用セミナーの開催、同社講師によるトレーナーの育成といった支援を受けている。提携以降、県内でPC講座を展開するNPOのひとつであるシニアネットの会員数は1.5倍増(50→75名)、トレーナー育成講座の受講者数は延べ230人を超えた。11月20日には、佐賀県高齢者大学 鹿島校の学校祭で「がばい楽しか情報化生活 in 鹿島」が開催。同社CTO 加冶佐俊一氏を招聘するなど、高齢者がICT関連情報に触れる機会の創出にも力を入れている。

※CSO:Civil Society Organizations、市民社会組織。NPO法人や市民活動団体、ボランティア団体など、県内の様々な組織・団体の総称。

「地域の活性化は結局、情報のオープン性と交流の質の問題」と話すのは、佐賀県のICT利活用レベルの向上に努める川島CIO。地域にとって必要な情報は、それを得る手段を持つ利用者と共有プロセスによって効果的に広まっていく。シニア層にとってそのスキルは非常に重要だ。川島氏は例として、デンマークの医療・福祉サービスにおける情報通信の利用状況を挙げる。デンマークでは年代が上がるに連れて利用率が高まるが、日本の高齢者層では低下する。本来医療・福祉をもっとも必要とする年代が、社会制度を享受できていない可能性がある。川島氏は、そのような状況の改善には、「(医療・福祉情報の)コンテンツが良くなきゃいけないし、ITもやさしくある必要がある。ユーザースキルも必要。日本では社会制度の問題も大きい」としながらも、「高齢者の方が声を上げること」が重要とも話す。何かを変えるには、ユーザの声が強くなければならない。そのためには情報が必要だし、情報にアクセスするスキルが必要になる。

上記のような狙いは、川島氏の構想の一部である。「シニアの方々が生活の豊かさを佐賀県で感じていただけることを重視している」とする同氏は、まずは「パソコンでの生活の豊かさを、日常的に感じてもらうことが大事」とし、CSOによるパソコン講座などを支援してきた。ただ、シニアネット佐賀らCSO関係者によると、現場では講師不足だけでなく、講師を育成するためのスキル不足が課題となっていた。それが地域活性化協働プログラムで改善された。これまでマイクロソフトの講師によるトレーナー育成講座が19回開催され、延べ230名が受講した。「(各講師の)我流に近い教え方が統一された」「教室の雰囲気づくりや意識が変わった」といった関係者の声は、教えるスキルの向上や講師を継続的に育成する土壌づくりなどの成果となってあらわれている。シニア向けICTイベントはこれまで4回開催され、約500名が参加、年賀状作成講座などもCSOによって実施されている。

11月20日に佐賀県鹿島市で開催された「がばい楽しか情報化生活 in 鹿島」。講演には、マイクロソフト 業務執行役員 最高技術責任者(CTO) 加冶佐俊一氏も登壇。会場からは、「せっかくCTOが来たのだから」と、Windowsのトラブル相談やパソコンの買い換え相談の質問が相次いだ

講演会場の外ではタッチ操作を体験できるWindows 7搭載機を設置。多くの人がタッチ操作に興味を指名していた

シニアネット佐賀が開催している年賀状作成講座。このようなシニア向け講座が活発に行なわれている

障害者こそICT利活用で社会参加の道がひらける

川島氏がマイクロソフトへ寄せる期待のひとつが、Windows 7の"アクセシビリティ"機能だ。佐賀県では2005年から「チャレンジドだれでもパソコン10か年戦略」(PDF)を進めている。「佐賀県内のチャレンジド(障害者)は誰でもパソコンを当たり前のように使える社会を実現する」(川島氏)という計画だ。川島氏は、手足、視覚、聴覚などの不自由な障害者にとって、パソコンは社会参加や就労の機会を得るためのハードルを越えられるものと話す。

たとえば、Windows 7に備わっている、画面情報の読み上げ音声エンジン「ナレーター」(※)や音声認識機能は、視覚障害者によるパソコン利用を可能にする。他にも多数のアクセシビリティ機能を、障害者一人ひとりにマッチングして習得させたいという。しかし、障害者へのパソコン指導やその講師育成は容易なことではない。「たとえば、目の見えない方に教えるスキルなどは難しい」「(障害者にパソコンを)教えることを専門にしたいが、機会に恵まれない人もいる」という状況だ。加えて、アピール不足で認知度が低いアクセシビリティ機能は、現状「宝の持ち腐れ」(川島氏)。

Microsoft Windows 7 対応日本語音声合成エンジンの配布について

今回の地域活性化協働プログラムに、障害者向けのICT利活用支援は含まれていないが、川島氏はそのニーズを把握しているという。マイクロソフトでは障害者を対象としたパソコン講師の育成支援や社会参加のサポートを実施しており、両者の新たな取り組みも実現可能だろう。

地域活性化協働プログラムは、1年間を期限とした地域振興のための自治体支援プログラムだ。マイクロソフトは得意とするICTソリューションやノウハウを提供する。佐賀県は、県内でのICT活用レベルの向上支援を求めた。同社CTO 加冶佐俊一氏は同県との取り組みについて、「もともとNPOのインフラがしっかりしていて、だからこそ次のステップに行けた。CIO自身も本気で取り組んでいることが明らかで、現場レベルでの問題を把握している。具体的な声を聞けたことで、具体的なアクションにつなげやすかった」。CIOのあり方も、佐賀県が早い段階での成果を見せている理由のひとつと言える。加冶佐氏はさらに、「こうした動きが波及効果として日本全体に広がって、全体として底上げされる状況があればいい」とし、佐賀県モデルの構築に手応えを示した。

川島宏一 佐賀県CIO(写真左)と加冶佐俊一 マイクロソフトCTO