河口龍夫氏。「展覧会はうれしいが、こうして挨拶しなければならないのが苦手」としながらも、ウィットのある語り口で来場者を楽しませていた

東京国立近代美術館において『河口龍夫展 言葉・時間・生命』が開催されている。会期は12月13日まで。このところ、兵庫、名古屋と立て続けに個展が開催されている、まさに売れっ子の河口龍夫氏の大規模な個展となる本展は、1960年代から今日に至るまで、現代美術の最前線で活躍を続けている河口氏ならではの幅の広い作品群を、言葉・時間・生命という3つのキーワードをもとに再構成し、河口作品の新たな魅力を引き出す展覧会となっている。

河口作品の特徴に金属やエネルギー、化石や植物の種子など、さまざまな素材を用いている点が挙げられるが、それら物質と物質、あるいは物質と人間との間の、目に見えない関係を浮かび上がらせようという、河口氏が一貫した姿勢で制作してきた数々の作品が並ぶ。

本展では富山の漁港の倉庫に眠っていたという船を持ち込み、それに蓮の種子を蜜蝋で付けた銅線を無数に植え付け、大変なインパクトを放っている「時の航海」(2009年)、7,000個の蓮の種子が整然と並べられた「7000粒の命」(2009年)といった最新作や、部屋のあちこちに照明やスピーカー、ファンなど電流という見えないエネルギーを光や熱、運動に変えて見えるものにした「関係-エネルギー」(1972年)などの過去の代表作も出品されている。このように一目見れば、確実に伝わってくるものがあるのが河口作品の魅力のひとつと言える。

時の航海(2009年)黄色に塗り込められた長さ8m、重さ600kgの木造船に、蜜蝋で蓮の種子をくくりつけた銅線がびっしりと取り付けられている

木馬から天馬へ(2009年)
船の上には、羽をつけた幼児用の木馬が天馬のごとく、古くなって打ち捨てられていた船を導いているように見える。世代間のわだかまりを取り払ってくれるようなやさしさに満ちている

蜂がパイロットの偵察機(2009年)
船の上空には、蜂が操縦する飛行機が天馬を偵察している

この本展の内覧会が13日に開催されたのだが、今回は若干、趣が異なっていた。内覧会は通常、関係者や報道に向けたものなので、報道関係者はPRESSのタグをつけて参加するのだが、そのPRESSのタグの中に「Twitter」のロゴが入った参加者が多く見受けられたのだ。これは同展が「KawaguchiTatsuo」の名義でTwitterアカウントを取得し、8月7日より配信を開始し、そのつぶやきの中でフォロワー20名を内覧会に招待したもの。

今回の内覧会参加者は老若男女、子供連れの女性までさまざま。参加された数名のフォロワーにうかがったところ、河口作品のファンで地方からこのためにいらしたという美大の女子学生や、このために午後はお休みをいただいてきましたというスーツ姿の男性もいた。「こうした内覧会は意義があると思う」としつつ、「鑑賞しながらリアルタイムでつぶやくのは大変」とも。

報道の受付とは別にTwitterの受付が。なんかちょっと羨ましい

Twitterからの参加者のタグにはTwitterのロゴが。内覧会参加中にはみなさんつぶやいていた

こうした美術館がTwitterで情報を発信するの例がこのところちらほらと増えてきている。海外ならMoMA、グッゲンハイム美術館、国内であれば愛知県美術館や山口情報芸術センターなどがつぶやいているが、こうしたプレビューに参加させるのは、Twitterでは初めての試みと言えるだろう。関係者にお話をうかがったところ、「多くの方から反響をいただきました。平日の昼間のため、参加したいができないという方も多かったのですが、それでも招待枠の20名を超える30名近くの方から参加申し込みをいただきました」ということだ。現在、同アカウントのフォローは400名を超えているので、実質的には1割近くの方が参加を希望したことになる。こうしたTwitterによるプロモーション効果についてはまさに賛否のあるところだが、今回のように全体の一割近くが参加に手を挙げたことは、一定の成果があったと言える。

河口氏は1986年にソ連(当時9で起きたチェルノブイリ原発事故のニュースにショックを受け、種子という生命のエネルギーがつまった物体と、放射能を遮断する鉛を組み合わせた作品をいくつも生み出している

関係ー鉛の花時計(1992年)
種子が鉛で封じ込められた132個の植木鉢が時計をなしている。命のエネルギーをこめた花時計が未来を夢見て時間を刻んでいる

関係ー生命・鉛の温室(1999年)
鉛の覆われた温室に、ひまわりの種子が保管されている。種子を未来へと保存するという意味を持つ

7000粒の命(2009年)
鉛で包まれた7000粒もの蓮の種子が整然と並ぶ。エネルギーを秘めた種子が並ぶ様は、いくつもの保育器が並んでいるようにも見える

DARK BOX(1975年)
ボルトでしっかり封じられ、表面にDARK BOXと記された鉄の箱が並んでいる。中は空っぽだが、空気が入っているとも言える。「闇」を箱に封印しているこの箱の存在をなぞるように、隣のブースでは来場者が暗闇に入って絵を描く体験をする「闇の中へ、眼をひらいて」も

関係ーエネルギー(1972年)
あちこちで音が鳴ったり、光ったり、と静かな作品が多い中で「にぎやか」な作品