宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月25日、日本人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在員として約4カ月半の間、宇宙で生活した若田光一宇宙飛行士の日本帰国会見を開催した。

帰国会見にてISSでの体験を語る若田光一宇宙飛行士

会見場に到着した若田氏は、「若田光一です。4カ月半にわたる宇宙長期外在より戻りました」と挨拶し、自身の打ち上げから地球帰還までの4カ月半の生活をダイジェストにまとめたビデオを紹介。「ISSを初めて間近で見たときは、地上400km上空に巨大な人工物が浮いていることに驚きを感じた」と、自身が生活したISSに対する印象を語った。

ISS滞在中は「宇宙ステーション用ロボットアーム(Space Station Remote Manipulator System:SSRMS)、通称カナダアーム2を用いた太陽光パネルの取り付けや、地球周回軌道上から米国のオバマ大統領との対話などを行った」(同)ほか、各国の実験棟において、さまざまな実験や各種設備の整備作業などを行ってきた。

ロボットアームを用いた作業などを行った(左)ほか、オバマ米国大統領との対話なども行った(右)(映像提供:NASA)

軌道上から日本を眺めることもしばしばあった(モニタ内の映像はNASA提供のもの)

宇宙空間からオーロラを見た様子(モニタ内の映像はNASA提供のもの)

地球の大気を通さずに見た太陽はサングラスを何重にもしないと見れないという(モニタ内の映像はNASA提供のもの)

その後、7月31日10時48分(米国東部時間:日本時間7月31日23時48分)にスペースシャトル「エンデバー」に搭乗し地球に帰還。地球への帰還に際しては「非常に名残惜しかった」(同)とし、「宇宙飛行はかなり強烈な経験だった」(同)と振り返る。ただし、4カ月半の間はかなりの過密スケジュールだったほか、地球帰還後も45日間の米国航空宇宙局(NASA)のリハビリによるトレーニングおよび技術デブリーフィングが行われ、現在でも多忙な状態と語るが、「打ち上げ前にどれくらいの期間こまで滞在できるか、自問自答してみたが1年くらいはいけるのではないかと思った。しかし4カ月半経って、帰還する際になっても、また1年くらいはいけると思った」(同)とし、ISSの快適さとトレーニングによる体力の維持が可能であるという自信を垣間見せた。

リハビリプログラムは、主に次回の打ち上げに耐えるレベルに向けた筋肉トレーニングと有酸素運動が実施されたほか、宇宙での連携が難しい目と脚の連携なども行われたという。ただし、「骨粗しょう症対策の薬の服用と筋肉トレーニングを毎日行っていたため、骨密度、筋肉ともに下がらなかった」(同)としており、今後、自身士に続く多くの被験者のデータを参考にすることで、薬が効果を発揮したのか、トレーニング器具の効果なのかの研究が進展することに期待するとした。

また、ジャンボジェット機の1.5倍程度の広さを有するISSとはいえ、長期間の閉鎖空間での滞在に対しては、「体調的には問題なかった。ストレスについてはユーモアが重要なほか、そういった状況下でも全員で3食ともにすることで、チームワークが保たれた」(同)と振り返り、持ち込んだ28種類の宇宙日本食も搭乗クルー全員で楽しく食べたという。

宇宙日本食はほかのクルーにも人気だったという(モニタ内の映像はNASA提供のもの)

このほか、9月11日午前2時1分46秒(日本時間)に、種子島宇宙センターから打ち上げられた補給物資運搬用宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle:HTV)の技術実証機などについても質問が飛ぶと、「JAXAのスタッフとして誇りに思う。実際にISSとHTVをドッキングさせたクルーらは、ほんの2カ月前まで一緒に仕事をしていた人たちで、そういった意味でも感慨無量。HTVの打ち上げ成功により、"きぼう"の運用が進むこととなる。技術実証機がミスなしでISSに辿りついたことは、日本の技術力の証明にもつながる」(同)とし、今後、HTVやロケット技術を発展させていくことで、日本が宇宙開発の分野でリーダシップを発揮できるのではないかとした。

HTVなどに関連し、後に続く日本人宇宙飛行士や日本の将来の宇宙開発についても言及。「新しい日本人宇宙飛行士が誕生してくれたこともうれしい。ISSに日本人がどんどん入って仕事をしていってもらいたい。そしてJAXAの一員としての夢は種子島から有人機の打ち上げに参加すること」(同)とし、これまでの宇宙飛行士としての訓練などの経験から、宇宙開発の根幹には有人機があり、「日本の宇宙開発がどういった方向に行くかは議論する必要があるが」と注釈をつけながらも、「現場としては、日本がより主体的に宇宙開発をしていくための根幹になるし、技術立国を掲げるのであれば、宇宙という存在はその鍵となり、国際社会のリーダシップを発揮する意味でも重要」(同)とした。

また、個人的にはこれまでの経験を生かし、再びISSに行き、リーダシップを発揮したいという想いもあるとし、「ISSでの仕事は、今までにない厳しい仕事だった。その中で仲間たちとがんばってこれたという意味は大きいと感じる。こういった経験を他の日本人宇宙飛行士にもしてもらいたい」(同)と、こうした経験が日本の宇宙開発につながっていくと語る。

なお、今回の若田宇宙飛行士の帰国日程は9月23日から10月3日を予定。帰国後、すぐに東京の立ち食いそば屋で念願だった冷やしたぬきそばを食べたと語るが、今後も関連各所への報告などが予定されるなど、過密スケジュールのためプライベートな時間が取れるかは微妙としており、「温泉なども行ってみたいが、それはまた別の機会にします」と笑顔を見せてくれた。