クリエイティブ分野の才能が人工繊維の優れた特徴を引き出し創造した“作品”を展示する『TOKYO FIBER `09 SENSEWARE』展が21_21 DESIGN SIGHTにおいて開催されている。会期は9月27日まで。第2回となる本展はイタリア・ミラノにおいて4月に開催されたミラノ・サローネにあわせ、トリエンナーレ美術館で開催したところ、わずか6日の会期ながら延べ3万8000人もの来場者を集め、大盛況となったもので、今回はまさにその凱旋展覧会となる。

『TOKYO FIBER `09 SENSEWARE』展はいまや日本の最先端デザインの拠点となった21_21 DESIGN SIGHTで開催されている。手前は超撥水織物「モナート(ユニチカ)」を使ったアトリエオモヤ+日本デザインセンター原デザイン研究所による『WATER_LOGO`09』

本展のディレクターを務めた日本デザインセンターの原研哉氏。無印良品のボードメンバーへの参加や、長野五輪の開・閉会式のプログラム、愛知万博のプロモーションを手がけている

TOKYO FIBERは日本の繊維技術の可能性を周知させる事を目的に2007年にスタートしたもので、クリエイターの創造性により、人工繊維の先端機能を引き出し、具体的な提起をしつつも、アートの領域へと昇華した作品ばかりで、単なる技術展示会とは大いに意味が異なる。本展はグラフィックデザイナーの原研哉氏がディレクションを務めており、参加作家もインダストリアルデザイナーのロス・ラブグローブ氏、建築家の隈研吾氏や青木淳氏、アートディレクターの佐藤可士和氏、フラワーアーティストの東信氏など実に多彩だ。 参加する企業も東レ、帝人をはじめ、国内繊維産業のトップメーカーが参加している。繊維業界はこのところ成長が鈍化しており、炭素繊維をはじめとする高付加価値、最先端の素材へとシフトする傾向にあり、本展はそうした新しい動きを敏感に反映した展覧会とも捉える事ができる。本展で紹介された繊維を見る限り、日本の繊維の未来に大いに期待を持つ事ができる、ワクワクするような作品ばかりが展示されている。

原氏は「展示には日本の伝統的なアイコンなんかは、まったく入っていないのに、(海外では)日本的だと言われ評判になりました。これには緻密、丁寧、繊細という、日本のものづくりでがもっと注目されているから」と語っている。クリエイターとセンスウェアとしての人工繊維のマリアージュが見せる未来をぜひ堪能していただきたい。

のびる

『笑うクルマ』 日産自動車株式会社デザイン本部+日本デザインセンター原デザイン研究所 / ロイカ(旭化成せんい株式会社) 数々の作品の中でもっとも人々の注目を集めていた「笑うクルマ」。旭化成せんいの超伸縮皮膜「ロイカ」を日産自動車のCUBEをベースとした車両に纏わせたもの

こんな感じに口? を動かしたり、目? を左右に動かしたり、エクボ?を作ったりとコミカルな動きをする。原氏は「冗談でクルマを笑わせているわけでなく、威嚇ではないもの(を提示している)。歴史の中にしっかりとピリオドをうつものになる」としている。クラクションではなく、笑うクルマが交差点での主役になる日も近い?

『MOSHI-MOSHI』 アントニオ・チッテリオ(建築家・デザイナー) / ファイネックス(旭化成せんい株式会社) 背もたれを隆起させたり、フラットにしたり、リモコンで変形するソファ。「ロイカ」を2枚の編地で挟んだ立体構造を持つ伸縮素材「ファイネックス」の特徴を活かしている

光る

『CON/FIBER』 隈研吾(建築家) / エスカ(三菱レイヨン株式会社) 「CON/FIBER」はコンクリートに無数の光ファイバー「エスカ」を埋め込んだ光ファイバーコンクリートを活用したもの。光だけでなく影や映像などを投影するスクリーンになっている

エスカを活用した光ファイバーコンクリートは、光を透過する性質を持つ建材として、世界の建築家、デザイナーから注目されている。こうして光にかざすと光を通すのがよくわかる

『ミストベンチ』 グエナエル・ニコラ(デザイナー) / エスカ(三菱レイヨン株式会社) 人に反応して光る「ミストベンチ」は光る繊維「エスカ」を編んで作られた

動く

『ロボットタイル』 岩田洋夫(筑波大学教授、デバイスアーティスト) / クラロンEC(クラレ) ナノサイズの金属微粒子を複合した繊維「クラロンEC」を使い、踏んだ位置を伝えるカーペット型センサーを装着した装置「ロボットタイル」。複数を使う事で歩行者に動く床を与える、まるでゲームの中に登場しそうな作品だ

『WIPING CLEANER FUKITORIMUSHI』 パナソニック株式会社デザインカンパニー / ナノフロント(帝人) 直径700nm(ナノメートル)という太さが髪の毛の1/7500という超極細ポリエステル繊維「ナノフロント」を使い、パナソニックがデザインしたシャクトリムシ型のロボットに装着することで、仕上げ用の自動拭き掃除機としたもの。ロボット掃除機と組み合わせて使うシーンが想像できる実現可能性が高い作品

土に還る

『苔時間』 東信(フラワーアーティスト) / テラマック(ユニチカ) 会場内でもっとも違和感を放っていたのがこの「苔時間」。植物の性質を知り尽くした花屋、東信氏が会場内に自然環境を創り出した。繊維という特徴から、凸凹した場所にも設置が可能で、会場でもすり鉢状に自然に設置されていた

立体構造を持つ生分解性繊維「テラマック」は植物を原材料とするポリ乳酸から作られており、植物との親和性が高い。土に還る性質をもっており環境負荷も軽減する

呼吸する / ふくらむ

『見える空気の遊具』 佐藤可士和(アートディレクター) / ブレスエア(東洋紡績) 三次元スプリング構造体の「ブレスエア」は全体の95%が空気という大変軽量で通気性の高いクッション材。水洗いが可能で清潔さを保てる事から、本作品では、ブロック状にして子どものための遊具として提案された

『繊維の人』 鈴木康広(アーティスト) / ブレスエア(東洋紡績) 通気性が高く、圧縮回復性が高い「ブレスエア」の特徴を用い「呼吸する人体模型」を創り上げた

『幸福なテーブルとテーブルクロス』 シアタープロダクツ(ファッションブランド) / uts-アルトフィーノ(東レ) マイクロファイバーの織物がテーブルから吹き上がる風でふんわりふくらみ、妙に和む作品

軽く強く

『SEED OF LOVE』 ロス・ラブグローブ(インダストリアルデザイナー) / TWF/メルセット(サカセ・アドテック、ユニチカ) 3本の糸が60度で交差するように編まれた三軸の織物。負荷を3方向に分散する事で、軽量だが強度に優れている。熱可塑性が高いので成型加工も容易だ。インダストリアルデザインの巨匠、ロス・ラブグローブ氏によるフォルムが美しい

『THIN BEAM』 青木淳(建築家) / トレカ(東レ) 鉄より強く、アルミより軽い炭素繊維「トレカ」で制作された照明器具。照明用LEDを使う事でより薄くできている

変形する

『TO BE SOMEONE』 ミントデザインズ(デザイナー) / スマッシュ(旭化成せんい) 「スマッシュ」の熱可塑性の特性を活かして加熱プレス成型したユニークなマスク。インフレエンザや花粉症で年中マスクが手放せなくなった現代において、オーダーメイドのマスクの登場を予感させる

『ブローンファヴリック』 nendo(デザイナー) / スマッシュ(旭化成せんい) 熱可塑性を活用して、熱湯の中で吹きガラスのように膨らませるという、斬新な手法でキノコの傘のような部分が制作されている

『繭のゆりかご マザーピース』 フレクスター(クラレ) 熱蒸気加工により自在に成型できる高機能不織布により、軟らかな部分と硬い部分を共存している