今年も、もうじき「圓朝まつり」の季節、と言っても、ピンと来ない人がいるに違いない。それでも江戸落語中興の祖である三遊亭圓朝(えんちょう)の名前は、耳にしたことがあるのでは? 8月11日は圓朝の命日で、谷中の全生庵で法要が行われるが、社団法人落語協会の噺家さんたちが出店を出したりして、まさに「お祭り」気分が味わえる。落語をあまり知らないという人も、ふだんなかなか声をかける機会がない噺家さんたちと触れ合えるので、それだけでも出かける価値が大きいのだ。

圓朝と圓朝まつりについて少々

全生庵へのアクセスは、東京メトロ千代田線千駄木駅から徒歩5分ほど
写真提供:社団法人落語協会

三遊亭圓朝(1839-1900)と言えば、何よりもあの「牡丹灯篭」の作者として知られている。有名な円山応挙の作品など、怪談を創作する際に圓朝が参考にしたと伝えられる幽霊画も公開される (有料) ので、暑い真夏を少しでも涼しくしたいという方は、こちらもぜひご覧いただきたい。さまざまな映画の原作となっている『怪談 牡丹灯篭』や『真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)』を読むのもおすすめだ。

怪談噺のほかに人情話でも知られた圓朝。「芝浜」や「文七元結(ぶんしちもっとい)」は、現代でも噺家によく選ばれる大人気の作品だが、これも圓朝の作である。筑摩書房の『三遊亭円朝』をはじめ、多数の書籍が出版されている。

なお、圓朝は近代日本語の祖とも言われる。落語の速記本が、明治の言文一致に大きく貢献したためだ。二葉亭四迷や夏目漱石などの作家たちは、圓朝の落語に影響を受けていたのだった。

圓朝まつりは、命日の8月11日に墓所がある全生庵で行われていた法要「圓朝忌」を、落語ファンへの感謝の催しに一新して、2002年から始められた。以前から行われていた「奉納落語会」は、引き続き一般客に向けて低料金で開催されている(今年の申し込みは終了)。そのほか、飲食店や販売店などの出店が並び、3,000人を超える客でにぎわうようになっており、すでに谷中の夏の風物詩として定着している。

噺家さん、芸人さんたちの芸と素顔(?)も見ることができる
写真提供:社団法人落語協会

今年は8月9日に開催決定

圓朝まつりが開かれるのは、毎年8月11日の直前の日曜日で、今年は8月9日に開催される。当日は9時30分に開場となり、終了は17時。その間に、さまざまなパフォーマンスや、寄席の招待券などが当たる抽選会も行われる。

屋台はおよそ35店も並び、祭りの目玉となっている。その中味は本当に多種多彩だが、「落語絵手紙」とか「寄席文字の店」など、いかにも落語らしいものから、自衛隊入隊希望者と裁判員に関する疑問に答える「桂才賀の法務笑と防衛笑」、「文生・小金馬の楽しい現代都都逸」、扇子や手拭いが当たる「時蔵のちんちろりん」など、愉快なものまで。さらに、本格派ビーフカレーが味わえる、柳家小三治一門の「ライスカレーはしゃじで食う」をはじめ、飲食店もいろいろ。

寄席や落語会とはまた違った落語、芸の雰囲気に触れられる貴重な機会だ
写真提供:社団法人落語協会

各店の内容については、公式サイトにも掲載されているが、何だかよくわからない店もあったりするので、とにかく当日が楽しみだ。そして何よりも、場内での噺家さんたちへの写真撮影やサイン依頼は、「お気軽に」というのがうれしい。これほど大勢の噺家さんたちと交流ができるのは、この「圓朝まつり」くらいだろう。

落語ファンにとっては、まさに夢のようなイベント。落語に詳しくない人でも、落語の雰囲気、噺家さんたちの個性に触れられる貴重なお祭りだ。これを機に、落語の世界へ引き込まれるかもしれない。

ちなみに、出店は商品の売り切れ、噺家の体力切れのため、時間前に閉店する場合もあるとのことなので、ご注意を。

日時 : 2009年8月9日(日) 9時30分~17時
場所 : 谷中全生庵 東京都台東区谷中5-4-7