既報の通り、ソフトバンクの2009年度第1四半期決算(2009年4月-6月)は前年同期に比べ増収増益だった。7月30日に行われた決算説明会で同社代表取締役社長の孫正義氏は、「ヨチヨチ歩きだったのが大きな節目節目を乗り越えて、しっかりと両足で地面を踏みしめて前に歩いていける経営の体制ができた」と話し、約3年をかけて構築してきた携帯電話事業が軌道に乗り、安定して利益を生み出せる体制が整ったことを強調した。

ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏

連結では売上高が前年同期比3%増の6,663億円、営業利益が同27%増の1,082億円で、四半期業績としては初めて営業利益が1,000億円を突破した。これを牽引したのが携帯電話事業で、事業単体で見ると売上高の伸びは前年同期比9%増、営業利益は同36%増で、連結業績での増加率を上回っている。今年度の業績予想では連結の営業利益を前年比608億円増の4,200億円と見込んでいるが、「年608億円の増(の見込み)に対して第1四半期で(すでに)232億円の増加で、実現できると自信を持っている」(孫社長)とし、ほぼ確実に達成できるとの考え方を示した。

携帯電話事業で売上を増やすための戦略について、孫社長はこれまで行ってきた説明をさらにシンプルにし、「『契約数増加×1契約あたり現金収入=キャッシュフロー増加』、この1行の式だけで説明できる」と提示した。

2009年度第1四半期連結決算の概要

ソフトバンク携帯電話の契約数は、ボーダフォン買収以降に500万契約以上の純増を示し、今年6月末時点では2,096万契約となっている。1契約あたりの平均サービス収入は漸減傾向にあるが、携帯電話端末の販売代金を含めた『1契約あたり現金収入』はここ2年ほどの間ほとんど変化がない。契約数が増えており、平均現金収入が変わっていないので、全体としては現金収入は増えているという説明だ。

端末販売代金を含めた、1契約あたりの現金収入はこの2年間ほぼ横ばいという

孫社長「iPhone 3GS」をべた褒め

同社の携帯電話事業におけるシンボルとして孫社長が強調したのは、やはりiPhone。調査会社による、家電量販店における販売台数順位のグラフを示し、昨年夏の「iPhone 3G」発売と同時期に人気だった機種が、その後どのような推移を見せたかを紹介した。iPhone 3Gは発売から1年間にわたって1~2位につけていたのに対し、同時期の上位機種は1年もたつと多くが100位以下に転落しているという。

「発売前、iPhoneは日本市場に適していないといった批評があったが、この1年間でどういう推移をたどったか。iPhone以外の携帯電話は、発売から1年たったらほとんど全機種が100位の外にいるが、iPhoneはずっとほぼ1位。コロコロ変わっていく1機種とは実態が違い、同じハードの端末でもOSが進化する、アプリケーションがそろっていくiPhoneは、時の経過と共にその輝きを増していく。携帯というよりはモバイルPCに近い状況」(孫社長)。

今年6月に発売した高速版の「iPhone 3GS」に関しては、「もう少し納品があればもっと純増できるのでは」(同)というほどの好調といい、「(iPhone 3Gを)はるかに超える感動と快適さが手に入る製品」と"べた褒め"した。「私も毎日使っているが、『いままでよくこれなしで生きてきたな』と思うほど。インターネット人間の私が、PCを使う頻度が10分の1に下がった。最初にPCに触れたとき、インターネットに触れたときに匹敵する感動がある。そのくらいすごいんだということだ」(同)。

従来の携帯電話と違い、iPhoneは1年たっても人気の落ち込みがないとしている

携帯電話事業者としてだけでなく、1ユーザーとしてもiPhoneをこの上なく高く評価しているのはこれまでの孫社長と同様だったが、今回の会見では加えて「iPhoneがすべてだと言っているわけではない」ともコメントした。

「世界中の他の携帯もiPhoneのようになってくる。通話のためのマシンではなく、モバイルインターネットのための製品になってくる。他のクラムシェル(折りたたみ型)もiPhoneのようになる。将来携帯はどうなるのかを想像する前に、iPhone 3Gを使ってもらえれば、将来の姿が少し体験できる。3GSを使っている人は、もう少しその中身がわかってくる」と述べ、iPhoneは3年くらい先の携帯電話の姿を今に体現したものと位置づけていることを明らかにした。孫社長がiPhoneをべた褒めするのは、今後の携帯電話の姿を知るためには、実際にiPhoneを使ってモバイルインターネットを体験するのが最も早道だからという説明している。

なお同社は、「新スーパーボーナス」で携帯電話を購入した場合に月々の通信料を割り引くサービス「月月割」に関して、8月19日以降の契約では、基本使用料を割引の対象外にする方針で準備を進めている。これまでは、無料通話対象分しか通話しないユーザーの場合、月月割が有効な期間中の通信料はほぼゼロという場合もあったが、この改訂以降は、最低でもホワイトプラン基本料金980円の支払いが必要となる。

これについて孫社長は「(ユニバーサルサービス料の)8円しか払っていない人もいるが、それで我々のネットワークをお使いいただくのは、他のユーザーとアンフェアなのではないか。基本料金の980円くらいはお支払いいただきたいということで検討している。普通に使うお客様から見れば割引を満額享受いただける」と話し、ユーザー間の不公平をなくし、さらなるサービス改善につなげるためと説明した。

中国戦略の重要性も重ねて説明

また、同社は当面大規模な企業買収などを行わない方針を示している。これについて「ソフトバンクは守りに入ったのか」という見方もあるが、孫社長は明確に否定。さらなる成長に向けた布石として打ってあるのが、中国のインターネット関連企業への投資である。「中国はGDPが来年日本を抜いて世界2位になるのがほぼ確実。インターネット人口はすでに米国を抜いて世界一だが、普及率は19%でまだまだ伸びる。成長途上であるにもかかわらずすでにアジア一(の市場)。携帯電話契約数は米国の2倍、日本の6倍」(孫社長)であり、市場としての重要性に疑いはない。

2007年、法人向けに購買サイトを展開する「Alibaba.com」の上場で、Alibabaグループに出資するソフトバンクは大きな利益を上げた。同グループ傘下には個人向けオンラインショッピング市場で中国最大手の「Taobao.com」、オンライン決済で同最大手の「Alipay.com」など、強力なサービスを手がける事業者が複数存在する。また、「Xiaonei」「Kaixin」といった大手SNSを運営するOPIにも出資しており、Xiaoneiは1年でユーザー数が倍になり5,600万ユーザーを突破、Kaixinは2カ月で倍増し2,000万ユーザーを突破するなど、好調だという。

Taobao.comの取扱高は今年1年で2.7兆円に上る見込み

OPIが運営するSNSのユーザー数が急拡大している

携帯電話では、中国最大の事業者China Mobile、そして英Vodafone、米Verizon Wirelessと共に、コンテンツやアプリケーションに関する共通の仕様や技術を検討する団体「Joint Innovation Lab」での作業を進め、モバイルウィジェット用プラットフォームの開発などを行っている。孫社長は、そこでの成果が反映された製品が登場する時期については、「2010年」とコメントしている。