そしてとうとう10時55分、第2接触(皆既日食開始)。スピーカーからも「皆既日食開始」の声が流れる。辺りが一瞬のうちに暗くなり、拍手が沸き起こった。皆既日食特有の、地平線付近だけ日没直後のように淡く照り輝く光景がなんとも美しい。グラウンドの人々からもどよめきのような歓声が上がった。

しかし肝心の太陽は? ……見えない。まったく見えない。どうしようもなく分厚い雲が頭上を覆っている。隣の喜界島では一部で観測できたようだが、コロナもダイヤモンドリングも夢のまた夢である。時間はどんどんと流れゆく。3分などあっという間だ。そして、「皆既日食、終了」。その声がむなしくグラウンドを撫で、力ない拍手がパラパラと起こった。

周囲がふたたび明るくなる。祭りが終わったあとのような、熱が消えたぽかんとした空虚感が、会場全体を包んでいた。時間はちょうどお昼時。失意の人々は公園内の屋台村に徐々に集まり出し、ビールを飲み、焼きそばやカレーを食べながら、「残念だったね」「でも自然のことだから仕方ないね」「暗くなったのを体験できたからまあよしとするか」などなどと口々に語り合っていた。

第2接触(皆既日食開始)の3分前から2分前。かなり厚い雲がかかっており、太陽の明瞭な輪郭は認識できない。写真でもこのように雲ににじんでしまって話にならないが、小さくなっていくのはなんとなくわかる

10時55分、皆既日食のスタート……だが、もはや真っ暗で太陽の姿はまったく見えず。ミラクルに賭けて何度もシャッターを切るが、結局黒い空が写るだけで、コロナも何もあったものじゃない。3分は無情に過ぎ去り、ぼんやりとした太陽がまた空に戻ってきた

今回の皆既日食で唯一感動できたのは、その瞬間からふっと周囲が暗くなったこと。とはいえ太陽がある程度出ている状態の皆既日食では、完全な暗闇にはならない。地平線(水平線)の近くは夜明け前か日没直後のようにうっすらと輝いていた。これがまた言葉にできない美しさだった

その日のうちに、1,200人のうち800人が帰路に就いた。公園内が急にガランとして、さみしくなる。喧騒に包まれた数日が終わり、島に静けさが戻り始めていた。

夜中、会場を警備する地元警備会社の人たちと長時間、話した。今回やってきた人たちがリピーターとなり、また奄美大島を訪れてくれるか? ……それについて、彼らは一様に懐疑的だった。彼らの一人が「これで島もまた下向きになってしまうんですかねぇ」とつぶやいたのが印象的に残った。長い長い1日の、終わりの言葉だった。