今回はランキングトップ10のうち実に7件が著作権関連の事件。ソフトの違法コピーから、携帯向けの音楽ダウンロード、文章の無断転載まで様々だが、そのうち3件はDVDの海賊版の取り締まり。メディア芸術立国を謳うためにまず国内に向け毅然とした態度を示すべき、というお上の意向があるのかどうか不明だが、産業が発展するためには正しくお金が廻る必要があることは確かだ。

2009年5月のネット事件簿 Top10(※)

順位 記事 掲載日
1位 「倖田來未は京都の裏切り者」ブログで暗殺予告の会社員男逮捕 - 警視庁 5/9
2位 国立感染症研究所装い「豚インフルエンザ」便乗メール、注意よびかけ 5/1
3位 JASRAC、「著作権侵害の温床」ケータイ掲示板サービス事業者に警告 5/19
4位 海賊版DVDで600万円稼いだ男逮捕、モバオクで顧客管理欠かさず - 愛知県警 5/27
5位 海賊版アニメDVDのネット販売で夫婦逮捕、"中国内正規品"と宣伝 - 北海道警 5/13
6位 記事の無断転載繰り返した男逮捕、通販サイト売り上げのため - 千葉県警 5/28
7位 フジテレビ『ごきげんよう』海外で視聴可能な状態に、男女を逮捕 - 警視庁 5/29
8位 Adobe CS4体験版を解除ツール付きで販売、48歳無職男を逮捕 - 千葉県警 5/22
9位 知人女性のIDで「mixi」不正アクセス、近鉄車掌を逮捕 - 奈良県警 5/13
10位 エクササイズDVDの海賊版販売、ヤフオクで300万円稼いだ女逮捕 - 警視庁 5/29
※各記事の掲載日(5/1~5/31)から1週間のアクセス数をもとにしています。

過去のニュース検索は「Google News Archives」が便利

今回のアクセス数トップは他を圧倒して倖田來未暗殺予告犯逮捕の事件。久々にネットの犯行予告事件がトップについた。やはり芸能人の名前があると人の興味を引くようだ。

事件の概要はタイトルに集約されているとおり、レコード会社が開設したブログに「倖田來未を東京駅新幹線ホームで暗殺します」などと書き込んだ男が、脅迫の疑いで逮捕されたというもの。逮捕されたのは埼玉県川越市の31歳会社員。倖田來未を「京都市の裏切り者です」と言うからには、男は京都市出身なのだろうか。

一体何をもって"裏切り者"であるという考えに至ったのだろう。京都市が一人の芸能人について何らかの評価を下しているというのは妄想だとしても、長く活動している芸能人を相手に今頃になって裏切り者という言葉を用いて脅迫しようと考えたのであれば、直前に何か問題になる行為があったのではないかと想像される。

しかし、今年2月~3月頃のニュースやブログ記事を探したものの、1月末発売に発売したアルバムや、主題歌を歌った映画「昴-スバル-」公開、妹misonoとのコラボレーション・シングル発売のことなどが多く、ざっと見た限りでは特に世間を騒がせた形跡はないようだ。大手掲示板などを探せば何か見つかるかもしれないが……。

やはりこれは、いちファンが自分の期待を裏切られたことに対する怒りや失望から引き起こした事件だったのだろうか。社会人経験は短くないであろう31歳の人間がとる行動としては……いや、いいです。こんな話を記事に書くのはもう疲れました。

ところで、ニュースの検索なら「Google ニュース」が便利だが、2月~3月頃に出ていたニュースを検索しようと思うと、過去1カ月分しか閲覧できないGoogleのニュース検索は使えない。そこで今回試してみたのが「Google News Archives」だ。検索するとキーワードに該当するニュースを時系列で表示し、月ごとのニュースの件数をグラフで見ることができる。さらにグラフ表示から日付を絞り込んでいくことが可能だ。英語版しかないが、日本語でも問題なく検索できる。

錬金術は金を生み出す技術ではないのだ

ランキングの4位、5位、そして10位に、海賊版DVDを販売し逮捕された事件がランクインしている。今に始まったことではないが、立て続けに発表されるとこの方面に対しての警察の捜査が強化されているのかという印象を受ける。

このうち4位にランクインしたのは、複製したアニメのDVDを携帯電話のオークションサイト「モバオク」で販売したという事件。逮捕された無職の男は、「落札者には、落札後に商品が海賊版であることを説明」していたというから、品物が届いてから海賊版だと届け出られることを防ごうと考えていたのだろう。また取引した"顧客"に対して「メールでリストを送信し宣伝」もしていたというから、大した商売人だ。まっとうな商売であればぜひ見習いたいマメさである。

それにしても、DVDの落札者はこの男から説明を受けてそれが海賊版であると知りながら買っていたことになる。正統な利権者の利益を侵害していると分かった上で、不当な商品に金を払い、ギャンブルに興じる男を儲けさせていたわけだ。「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST1」を購入したにも関わらず、等価交換の原則を無視するとはいい度胸だ。そして、無視し続けた容疑者の男は身ぐるみ"持って行かれた"。まぁ、これから罪の対価を支払うことになるのだが。

5位にランクインした事件では、容疑者の運営していたネットショップにおいて「中国内正規品」という宣伝をしていたという。まともに突っこむなら、リージョンコードの異なる地域の正規品を一般のプレーヤーで再生できるわけがない。また、10位の事件では品物の説明に「正規品と同じ内容ですので映像や操作に全く問題ありません」と掲載。どう考えても問題大ありである。著作権保護を徹底するため、多少の利便性を犠牲にしてでも厳しく規制するという考えには賛同しかねるが、明確に違法であると分かっていながら犯罪に荷担するのは、言ってみれば"共犯"だ。

犯罪が増えることでしかるべき権利を持った人に適正な利益が分配されない状況になれば、結果的に次の作品の質を落とすことに、ひいては業界の弱体化に繋がってしまうと考えるべきだろう。日本のメディア芸術を云々する気はないが、少なくとも制作者に対する敬意だけは忘れずにいたいものだ。