チグリス・ユーフラテス流域での発掘調査の成果とその文明・出土品について、ここまで体系的かつハイレベルなクオリティな展示を、年間を通じて見学できる場所は、国内でもおそらく唯一なのではないかと思います。実際、『古代オリエント博物館』は国内初の古代オリエントをテーマにした研究博物館で、1978年にオープンしました。

テーマを絞った企画展なら始終探すことができるでしょうが、自前の収蔵品として、常設展でいつもそれらを見られるところがここのすごさ(特別展の場合には常設展はお休みすることもあるようなので、展示スケジュールを参照のこと)。

場所は池袋のサンシャインシティ。サンシャインシティ文化会館の7階でエレベータを降りると、そこは先ほどまでの喧噪が嘘のような静謐な空間が広がっています。⇒ 「裏」ミュージアムグッズ・ランキングはこちら!!

ファラオになりきり写真撮影……。最初から飛ばしてます。でも展示はストイックなほど真面目です

また、この博物館の展示はとても親切で、子供にも理解できるような工夫が随所に凝らされているのも特徴的。確かに、「古代オリエント」と一言で言われても、実はその期間も地域もやたら広いし、日本人にはあまり馴染みがないのでは、と思うのですが、そこは最初のツカミからバッチリ。

入口にはまずツタンカーメンの記念撮影スペースで、なりきり気分が楽しめ(『もしかしてツッコミ待ちなんだろうか』とか、しばらく考えこんだ)、展示室に続く短い通路には、展示物についてのクイズのパネルが数点貼られています。設問の展示物を探して館内を彷徨うのもよし、設問によって与えられた『何? 』の切り口から展示を楽しむのもよし。これらの導線が全て、小学生ぐらいの子供の目線で作られているところが、博物館としての良心を感じられます。しかも子供騙し感のあるお茶濁しじゃない! 何よりもこの絶妙さがすばらしい。

館内に入ってすぐの位置に広がる、発掘地のパノラマとヒエログリフの複製

展示室の様子。落ち着いた心地よい空間

エントランスから館内までの通路に3つほど配置されているクイズです。答えは展示の中に

テル・ルメイラ遺跡での出土品と、発掘された住居の再現コーナー

巨大な彫刻などの派手な展示品はそれ程多くはない、という意味で、派手ではありません。そのかわり、アミュレットと呼ばれる護符や円筒印象などの小さな品々のバリエーションに驚かされます。これらが実は一握りの人々にしか所持できなかった貴重な品であり、現代人の眼には決して華麗には見えないとしても、非常に高度で緻密な作業の施された小さな芸術品なのです。

これらの文明への興味を既に持ち、収蔵品を堪能したい人には、筆者は是非ともルーペ持参をオススメします。ここで待つ小さな出土品たちが、どれほどの手間と優れた技術、そして現代人とは異なる高い美意識や遊び心すら持った、決して名前すら知ることができない職人たちの手から生まれてきたことに感動を覚えるだろうことは間違いなし! です。

アミュレット(護符) / シリア

地母神像 / パキスタン

「古代オリエント文明」がいくつも生まれては滅んでいった地は、その多くが紛争の絶えない地域というイメージが強いのですが、そこはかつて数多くの高度な文明が生まれては滅んでいった、まさに豊饒の地だったのだ、ということを、多くの人々に知ってもらいたいもの。博物館職員の方々のそんな想いが詰まった、密度の濃い素晴らしい博物館のひとつです。

館内の各所には、テーマ毎のパンフレットが配置され、気軽に知識を得ることができます。ちなみに1部10円、全10種類あります。

受付に置かれている、パンフレットの代金入れ。なんとこんな場所に本物の発掘品です!