米Applied Materials(AMAT)のCEOであるマイケル・スプリンター氏

半導体/FPD/太陽電池製造装置大手の米Applied Materials(AMAT)は6月2日、同社CEOのマイケル・スプリンター氏が来日、都内で「経済/環境危機におけるクリーンエネルギーの果たす役割」についての記者説明会を開催した。

同氏は冒頭、「経済の状況は芳しくないが、これは日本産業にとっては好機である」として話を始めた。これは、省エネルギー、クリーンエネルギーの活用といった動きが世界的に注目を集めているためで、中でも「30年以上昔から太陽電池を製造し、パイオニアとなってきた日本企業の活躍により市場は成長してきた」と、太陽電池市場を地道に形成してきた日本企業に賛辞を送った。

現在、太陽電池の国内市場は1994年から2005年度まで行っていた補助金制度により、累計で約40万戸に発電システムが設置されたと言われている。政府は、一般住宅への太陽光パネル設置数を2030年までに全世帯の約3割にあたる1,400万戸に拡大する方針を提示しており、「日本にとって、太陽電池分野でのリーダーシップを今後もとり続ける必要があると考える。リーダーシップを維持することで、環境問題や社会問題にも貢献できる」と同氏は語る。

また、2030年のアジア地域全体を見ても、経済成長に伴い消費電力は現在の約2倍に跳ね上がることが見込まれている。そうなれば、必然、エネルギーが必要となるが、そのエネルギー源としては太陽電池や風力、原子力といったCO2を排出しない化石燃料の代替エネルギーが必要となるという。現在、全エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合は2%程度。未だに化石燃料がその大半を占めている。もし、化石燃料だけで電力量を増やそうと思えば、50年後には、CO2の排出量は世界全体で現在の2倍に膨れ上がるとの見込みがあり、地球環境に深刻な影響を与える可能性が高まる。しかも、アジアの成長率が高いまま続けば、2030年にはアジアから排出されるCO2の量は、全世界の約半分を超す量になるとの推定もある。

経済活動の活発化に伴うCO2の増加は大きな問題を2つ抱えることとなる。1つは化石燃料の枯渇。「原油価格は一時期1バレル150ドル台を記録し、その後落ち着いたものの、未だに乱高下を繰り返しており、今後の新興国での需要増大が課題になるほか、より困難な所での採掘による採掘コストの増加、それに伴う価格の上昇、そして最終的には原油の枯渇にたどり着く」(同氏)であり、石炭などのほかの化石燃料も経済が回復するにつれ、消費量が増大、価格が上昇することが眼に見えており、すでに米国ではその影響が出始めているとし、輸入に頼る日本も他人事ではないと指摘する。

こうした問題の解決に向け、再生可能エネルギーが注目されているわけであり、再生可能エネルギー技術が育てば、日本もエネルギーの輸入大国から輸出大国へと変化するかもしれない。そうした方向に進むためには政府の取り組みも重要になる。

同氏は、米国産業のトップらと米国大統領であるオバマ氏と会談、米国の太陽電池の普及を進めるためには、市場を刺激する必要があるとの結論を出したという。例えば、税制面での優遇措置、規制の緩和、スマートグリッド、キャップ・アンド・トレードといったことにより、国民がCO2排出に対して意識するようになると、化石燃料だけに頼ることができなくなる。

こうした意識の植え付けには課題が多く存在することも確かである。まず、1人1人の心構えを変える必要がある。同氏は「世紀末までに、100%クリーンエネルギーにする必要がある。この考えは日本にチャンスをもたらす。なぜなら、日本にはイノベーションを生み出し、新たなモノを生み出し、グローバルスタンダードを生み出し、人々の生活を変えてきた自負がある」と語り、さまざまな再生可能エネルギーが日本を強くすると指摘する。

再生可能エネルギーに向けて日本が提供できるものは、「ごく初期段階からたずさわってきた太陽電池に関する経験、送電網の安定性、半導体技術の知見」(同氏)などであり、半導体技術を活用することで、かつてトランジスタの製造コストが下がってきたように、設置面積が2倍増えるごとに、Wあたりのコストは約20%低減されることが経験的に知られている。

AMATが提供する薄膜太陽電池のターンキーソリューション「Sun Fab」の解説画像(5.7m2のガラス基板を太陽電池にすることが可能。すでに5つのFabで稼働し25万枚が製造されているほか、9つのFabの建設が進んでいる。ちなみに、タンデムへの対応も計画しているFabもあるとのこと)

日本は他国に先駆け、太陽電池の製造を開始し、こういった事象を経験している。「いつの日か、後世の歴史家は、この時代が変換点であったというかもしれない。これから先は、原料を燃やしてエネルギーを得るのではなく、必要なエネルギーを自ら生み出す新たな手段を自身の手で創り出す時代がくる。そうした意味では、我々は新しい時代の夜明けに居ることとなり、道筋を照らす先見の明があるリーダーを求めることとなる。これまでの経験を活かせば、日本こそがリーダーになれるはず」(同氏)と日本がエネルギーの世界で指導的な役割を果たせると指摘する。

また、そのためには、計画だけでなく即座に実行に移すことが重要と指摘。「簡単なことではないが、クリーンな世の中にするためには大胆な施策が必要であり、これによりエネルギーの輸出大国になれる可能性が出てくる。エネルギー問題と環境問題は世界的な問題である。過去、困難な問題を次々と解決してきた日本人の能力に期待したい」(同氏)と日本への期待を表した。