2009年4月、「エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下、省エネ法)」が改正施行された。これにより、エネルギー管理の単位が、従来の工場や事業所単位から、企業単位へと大きく変更された。同法の施行からすでに2ヵ月が経過した現在、今後、企業として具体的に何が求められるのか、さらに、企業経営の視点から留意すべきポイントは何かについて、具体的に解説する。

法対応における3つの要件

 今回の省エネ法改正により、今後企業に求められる法対応の要件は大きく3点ある。

 まず1点目は、企業レベルでのエネルギー使用量状況の届出である。企業レベルでのエネルギー使用量が一定規模以上の場合には、管轄の経済産業局に対して「エネルギー使用量状況届出書」の届出を行う必要がある。具体的には、企業全体(本社、工場、支店、営業所など)もしくは、フランチャイズチェーン事業全体(本部および加盟店)において、2009年4月から2010年3月までの1年間のエネルギー使用量(原油換算値)を把握し、合計が1,500kl以上になる場合には、全事業所におけるエネルギー使用量の届出が必要となる。(初年度届出期限は2010年7月末)

その際、特に重要なポイントは、事業所がテナントとしてオフィスビルなどに入居している場合には、テナント専用部におけるすべてのエネルギー使用量を把握する必要がある点だ。

財団法人省エネセンターが提供している推計ツール「空調エネルギー推定ツール」の画面

一般的にテナント専用部のエネルギー使用量は、すべてがテナント別に区分されているケースは少ない。そのため、テナント側は、ビルオーナー側にエネルギー使用量の推計データの提供を求めるか、もしくはテナント側独自に推計することにより、テナント専用部のエネルギー使用量を把握する必要がある(なお、テナント専用部におけるエネルギー使用量の推計については、財団法人省エネセンターが提供している推計ツールを用いて推計することも可能)。

2点目は、エネルギー管理統括者等の選任である。企業全体もしくはフランチャイズチェーン事業全体の年間エネルギー使用量(原油換算値)が1,500kl以上の場合、その企業もしくはフランチャイズチェーン本部は、「エネルギー使用量状況届出書」を提出することにより、特定事業者および特定連鎖化事業者と指定される。

これらの特定事業者・特定連鎖化事業者においては、企業経営に関与する役員クラスからエネルギー管理統括者、ならびにそれを実務面で補佐するエネルギー管理企画推進者をそれぞれ1名選任し、企業全体でのエネルギー管理体制の推進が義務付けられる。

最後の3点目は、企業単位での報告書などの提出である。特定事業者・特定連鎖化事業者は、企業レベルでの定期報告書・中長期計画書を毎年提出する必要がある(初年度届出期限は2010年11月末)。また、事業者全体としてエネルギー消費原単位を中長期的に年平均1%改善する努力目標の設定も求められる。

リスク対策のポイント

以上のように、今回の省エネ法改正で企業レベルでの法対応が求められることにより、企業経営に対して財務パフォーマンスとコンプライアンスの2つの側面からリスクが及ぶことが懸念される。これらのリスクへの対策として以下の2点を行うべきと考えられる。

まず1点は、財務パフォーマンスのリスク対策として、企業レベルでのエネルギーマネジメントの改善を行うことだ。今後、企業レベルで毎年1%のエネルギー消費原単位の改善が求められるため、企業全体で最も投資対効果の高い省エネ対策から優先的に取り組む必要がある。つまり、現場レベルにおける技術的な観点からの省エネ対策(設備の改修や入替など)だけでなく、マネジメントの観点からの対策(責任体制の整備、啓蒙教育、計画プロセスの導入、運用・保守マニュアル整備など)も併せて検討することにより、継続的かつ最も効果的な省エネ対策を達成できる仕組みを整備することが重要となる。

もう1点は、財務パフォーマンスとコンプライアンスの2つのリスクへの対策として、効率的なエネルギーデータ管理体制を整備することだ。特に事業所数が多い企業では、データ収集・定期報告書作成業務の煩雑化が懸念される。そのため、企業レベルでの効率的かつ正確なエネルギーデータ管理体制の整備が重要となる。

また収集するデータは、使用量データだけでなく、コストデータも把握し、実施した省エネ対策の投資対効果を継続的に検証する仕組みを整備することも肝要だ。

以上より、今回の省エネ法への対応として、企業レベルのエネルギー管理体制をどのように構築すべきかおわかりいただけだろう。特に、昨今の厳しい経営環境下において、企業レベルで継続的な省エネを実現するには、経営的な視点から最も効果的な対策を継続的に実施し、定期的に検証していく仕組みを構築することが不可欠である。つまり、今こそ企業経営とエネルギーマネジメントの融合が求められているのだ。

執筆者プロフィール

山本英夫

アビームコンサルティング株式会社 社会基盤・サービス統括事業部 エネルギー担当
大手エネルギー会社在籍後、アビームコンサルティングへ転職。大手電力・ガス・石油企業における顧客管理・営業・顧客サービスなどエネルギー企業と顧客(エネルギー需要家)との関係に関する領域を専門領域としており、幅広いコンサルティングサービスを提 供。