医薬品・健康食品のECサイト「ケンコーコム」を運営するケンコーコムは25日、一般用医薬品のネット販売を規制する厚生労働省の省令について、国を相手取り、医薬品ネット販売の権利確認と省令の無効確認・取消を求め、東京地裁に提訴した。

東京地裁への提訴を受け25日開かれた「医薬品ネット販売規制に関する訴訟提起 記者会見」

厚労省提示の経過措置案にネット事業者は反対

今回の訴訟は、改正薬事法の2009年6月1日からの施行に伴い、同日から施行が予定されている厚生労働省の「薬事法施行規則などの一部を改正する省令」を巡り提起されたもの。同省令では、改正薬事法で定める「第1類」「第2類」「第3類」の医薬品に関し、「第1類」「第2類」の医薬品のネット販売を規制する内容となっており、2009年2月6日に公布、6月1日に施行される予定となっている。省令が施行されると、解熱鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬、水虫薬、妊娠検査薬、漢方薬などのネット販売ができなくなる。

だが、省令の公布前から、ケンコーコムを始め、楽天やヤフーなどのネット事業者などが反発。舛添要一厚労相はこうした意見に配慮し、省令が公布された2月6日、医薬品の販売方法を再度議論するため「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」の設置を指示。7回にわたり会合が開かれたが、検討会としては結論が出ずに終了。厚労省は緊急措置として、離島居住者や以前からの継続使用者に対して、伝統薬などの薬局製造販売医薬品と第2類医薬品の通信販売(ネット販売含む)ができるようにする「省令の一部を改正する省令案」(経過措置案)を同検討会で提示し、5月12日~18日のパブリックコメントを経て、5月中の公布、6月1日からの施行が予定されている。

この経過措置案に対して、検討会の構成員を務めたケンコーコム社長で日本オンラインドラッグ協会理事長の後藤玄利氏や、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏は「事実上のゼロ回答」などと反対を表明。

ケンコーコムと、日本オンラインドラッグ協会会員で医薬品・健康食品ECサイト「健康食品店ウェルネット」を運営するウェルネットは25日午前、医薬品ネット販売の権利確認と省令の無効確認・取消を求める訴訟を、国を相手取り東京地裁に提起。同日午後、記者会見を行った。

省令は「憲法第22条の営業の自由に違反」

記者会見では、訴訟代理人の阿部泰隆弁護士が訴訟の内容について説明。提訴に至った理由について、「省令が施行されると、これまで認められていた権利であって、憲法で保障された基本的な権利の一つである営業権が剥奪され、営業上の深刻な不利益を被る」とし、省令が憲法で認められている「営業の自由」に違反していると指摘した。さらに「多数の消費者が健康のために必要な薬を自由に求める権利が侵害されることになり、原告(ケンコーコム・ウェルネット)らが、そのような消費者の期待に応えることができなくなる」点も、行政訴訟を提起した理由であると述べた。

さらに阿部氏は、訴訟における具体的な主張として、以下のような点があると説明。

  1. 改正薬事法第36条の6では、「適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない」とあるだけなのに、医薬品のネット・通信販売を規制することを定めた省令は、法律の授権を得ておらず、違憲・違法である

  2. もし省令に法律による授権があったとしても、第1類・第2類の医薬品の情報提供手段を対面に限定するという厳しい義務付けを行ない、より規制を緩和した手段を設けずに一挙にネット販売を禁止することは、過大な規制であり憲法第22条に違反する

  3. ネット販売だけに厳しい不均衡な規制であること

その上で今回の訴訟で、以下の点について請求していると述べた。

  1. ネット販売を継続する権利があることを確認すること

  2. ネット販売を禁止する部分の省令が無効であること

  3. ネット販売を禁止する部分の省令の取り消し

判決までは1年以上かかる見通し

提訴にあたっての声明を発表する、ケンコーコム社長で日本オンラインドラッグ協会理事長の後藤玄利氏

ケンコーコムの後藤氏は、今回の訴訟に関する声明の中で、「安全か利便性かという議論は間違った問題の把握の仕方で、ネット販売は安全を確保した上で利便性を提供できる。6月1日の省令施行まであと1週間になったが、検討会も終了、パブリックコメントも終わり、我々がこの省令の施行を食い止める手段は唯一、行政訴訟を起こすしかなかった」と訴訟に至った経緯を説明。

楽天やヤフーなどが訴訟に加わっていない点については、「ネット販売を継続する権利があることの確認を求める点について、法律上実際に医薬品を販売している当事者のみ可能なため、プラットフォームのみを提供している楽天やヤフーでは難しいと判断したから」と述べた。6月1日以降省令に従うかどうかについては、「悪法も法」と語り、省令を遵守していく方針を示した。

また、原告のもう一方であるウェルネット代表取締役の尾藤昌道氏は、「改正薬事法は『セルフメディケーション』を掲げており、基本的には賛成しているのだが、省令が出てきておかしくなった。ネット販売はセルフメディケーションのためにも非常に大切で、それを規制する省令には反対せざるを得ない」と述べた。

阿部氏は今後の訴訟のスケジュールについて、「判決まで1年ぐらいかかる」と説明しており、すぐには結論が出ない見通しであることを示した。