「過剰な医薬品通信販売規制を検証するシンポジウム」が21日、東京都内で開かれた。自民党の世耕弘成参議院議員らの呼びかけに応じた消費者やネット事業者が参加。厚生労働省の省令による医薬品のネット販売規制について議論し、省令に反対する共同声明を採択した。

21日に開かれた「過剰な医薬品通信販売規制を検証するシンポジウム」

省令の改正案にも異論が噴出

2006年6月に公布され、2009年6月1日から施行が予定されている改正薬事法では、リスクに応じて医薬品を「第1類」「第2類」「第3類」の3種類に分類。これに関し、2009年2月6日に公布された厚生労働省の省令では、「第1類」「第2類」の医薬品のネット・通信販売を規制する内容となっている

一方厚労省では、省令が公布された2009年2月6日、舛添要一厚労相の指示により、医薬品の販売方法を再度議論するため「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」を設置。2009年5月11日に開かれた第6回会合では、離島居住者や以前からの継続使用者に対して、伝統薬などの薬局製造販売医薬品と第2類医薬品の通信販売(ネット販売含む)ができるようにする「省令の一部を改正する省令案」を厚労省が提示。だが、検討会の構成員から「十分な議論もしていないのに、改正案を出すのはおかしい」との異論が噴出した。

結局検討会では、省令の改正案について「検討会の意見を参考にはしたが、厚労省の責任で作成したもの」との位置づけにすることで合意。厚労省では、改正省令案に関するパブリックコメントを5月12日~18日に実施。5月22日に行われる予定の検討会の第7回会合で、パブリックコメントの結果概要を報告した上で、改正案を踏まえた形で省令を6月1日から施行する予定となっている。

鈴木氏「省令は生存権と営業活動の自由を侵害」

「過剰な医薬品通信販売規制を検証するシンポジウム」は、自民党参議院議員の世耕氏のほか、自民党衆議院議員の山内康一氏、民主党参議院議員の鈴木寛氏、民主党衆議院議員の市村浩一郎氏、民主党衆議院議員の田村謙治氏の5人が呼びかけ人となり、東京都千代田区の衆議院第二議員会館で開催された。

呼びかけに応じ、慶應義塾大学総合政策学部教授の浅野史郎氏、慶應義塾大学総合政策学部教授の國領二郎氏、中央大学法科大学院教授の安念潤司氏ら大学関係者や、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏、日本オンラインドラッグ協会理事長の後藤玄利氏、ヤフーCCO兼法務本部長の別所直哉氏らネット事業者らが参加。広島市視覚障害者福祉協会情報システム部長の志摩撤郎氏ら3人の消費者も参加した。

民主党の鈴木氏はシンポジウム開催を呼びかけた理由について、「ネットを必要とする消費者がいるのに規制するのは、憲法に定める生存権と営業活動の自由を侵害している。基本的人権を制限する場合は規制は最小限にとどめるというのが憲法の大原則であるにもかかわらず、国会で議論をしないまま規制をするのは憲法と民主主義を蹂躙するもの。また、新型インフルエンザのような事態もありネット販売のニーズが高まっているが、省令を出した厚労省はネットの価値を分かっていない」と省令に大きな問題があるからだと指摘した。

視覚障害のある志摩氏も、「インターネットは視覚障害で失った機能を補うことが可能で、障害者が自立するチャンスを与えてくれるもの。規制されるのは非常に困る。また、ネット販売を活用すれば、薬局で買ったり他の人に買ってもらう場合は守られないプライバシーも守ることができる。今回の省令は障害者の自立するチャンスと、プライバシー保護を奪うものだ」と批判。身体に不自由のあるほかの二人の消費者も、インターネットによる医薬品販売の規制をしないでほしいと訴えた。

三木谷氏「今の状況で『薬局に行け』はおかしい」

中央大学法科大学院の安念氏は、「対面販売のリスクとネット販売のリスクはほぼ同等のリスクなのに、一方だけを制限するというのは、規制は必要最小限にとどめるべきという判例に反する」と、省令には法的な問題点があると指摘。慶應義塾大学授の浅野氏も「薬の問題は薬そのもののリスクが問題で、販売方法の問題ではない」と述べた。同じく慶應義塾大学の國領氏も、「厚労省によると代理人が買いに行ってもいいということで、対面の原則は破綻している。対面の原則というのは、(ネット販売を認めたくないための)ただの言い訳ではないか」と批判した。

民主党の田村氏は、「(検討会でネット販売を批判する構成員らは)インターネットに対する偏見があるのではないか」と発言。自民党の世耕氏は、「ここに自民党の議員を呼ぶのは苦労した。ここに来るのは勇気がいること」と、この問題を巡る与党内における圧力の存在を示唆した。

楽天の三木谷氏は、「不謹慎な話かもしれないが、新型インフルエンザの感染拡大で、楽天市場の神戸地区の売上は『外出したくない』という消費者のニーズがあり倍増した。今のこうした状況で『薬局に行きなさい』というのはおかしいのではないか」と、インフルエンザ対策におけるネットの有効性について述べた。

共同声明「省令は撤回し、国会であらためて議論を」

シンポジウムでは最後に、「国民の健康に影響を与えかねない医薬品の通信販売規制に関する緊急共同声明」を採択。共同声明では、省令について以下の問題点を指摘している。

  1. そもそも対面でないと安全性を担保できない根拠は示されておらず、それを理由に通信販売という手段を大幅に規制するのは過剰な規制であり、憲法の理念にも反する

  2. 省令の経過措置案(改正案)は障害者、外出が困難な人、育児・仕事・介護などで多忙な人の要望に応えることが全くできていない。今回の規制が、かえって国民の健康を損ないかねないと強く憂慮している

その上で、「法律の授権範囲を超えた省令は撤回し、国会において、改めて国民的議論を行うこと」「そもそも医薬品の通信販売は認められるべきだが、(省令)施行まで時間が限られていることもあり、現行の販売が継続できるような措置を取るべき」と求めている。

22日には厚生労働省で検討会の第7回会合が予定されており、今回のシンポジウム・共同声明がどのような影響を与えるかが注目される。