なんで『五右衛門』じゃなくて『GOEMON』なの?

――この映画のすべては、その疑問の答えに集約されているといっても過言ではありません。

思えば、紀里谷監督のデビュー作となった『CASSHERN』も同じパターンで、確かにあれは、少なくとも往年のファンにとっての『キャシャーン』ではありませんでした。つまり『GOEMON』もそれと同じ路線を狙っているわけで、そうなれば自ずと作品の方向性も見えてくるというもの。

戦国版『CASSHERN』と考えておけば間違いありません

物語の舞台となるのは戦国時代末期。天下統一を成し遂げた豊臣秀吉(奥田瑛二)によって、世には庶民が待ち望んだ平和が訪れていました。そこへ現れたのが、謎の大泥棒・石川五右衛門(江口洋介)。彼は金持ちから金品を盗んでは庶民にばら撒く"義賊"であり、庶民のヒーローでもありました。ある時、五右衛門はいつものようにとある金持ちの屋敷から金品を強奪。その中にあった小さな南蛮製の箱を開けてしまったことから、五右衛門の運命は大きく動き始めることになったのでした――。

と、あらすじだけ見ると普通に戦国物っぽい雰囲気を漂わせているのですが、実際に見てみると、10人中9人はこう思うはずです。

「これ、本当に戦国物なの?」と。

実際、僕の知人も公式サイトを見て何かを勘違いしていたようで、「えっ、『GOEMON』って歴史物じゃなくて、SF映画だよね?」と不思議そうな顔をしていました。

でもそう思うのも無理はありません。何しろ本作のキャストが身に付けている衣装は、どれも和洋折衷……いや、むしろ"和"の要素がゼロに等しい斬新なデザインばかりなのです。

たとえば主人公の五右衛門からしてもう、マタギみたいな服装をベースに、ベルトを締め、さらに足元はブーツという超オシャレな出で立ちで、どう見ても大泥棒というよりも時代を先取りしすぎたファッションデザイナーという感じですし、五右衛門のライバルの霧隠才蔵に至っては、顔の下半分だけを覆うという、着ける目的がよくわからない仮面を着用、そしてやっぱり足元はブーツでオシャレにキメていました。

髪型も今風な五右衛門(左)

その仮面、何か意味あるの?

また、天下人である豊臣秀吉は、鯉のぼりみたいな服装で視聴者を笑わせにかかってきますし、その部下である石田三成はロン毛でオールバックという、そのまま実写版バンコランとして通用しそうな見た目になっていて、君主が君主なら部下も部下だと思いました。

すごく動きにくそうな秀吉の服

"異世界のチンピラ"という感じ

……ただ、なんといっても一番のツッコミどころは、織田信長がドラクエの"さまようよろい"みたいなフルアーマー姿で現れたシーンでしょう。

突然出現した謎の騎士がフルフェイスの兜(前面が鉄格子みたいになっているやつ)を脱いで、中から信長の顔が出てきたときの破壊力といったら……ちょっともう、危うく耐えきれずに試写室で笑いだしてしまうところでした。

視聴者の皆さんにおかれましては、何を見逃したとしても、ここだけは絶対にご覧いただきますようよろしくお願いいたします(画像がないので映画館で見よう!)。

……もちろん、製作サイドも衣装についてはあえてやっていることであり、「既成概念を跡形もなく破壊する」という公式サイトの紹介文からもそれが見て取れるわけですが、それにしてもいくらなんでも破壊しすぎだと思いました。

ヒロインの茶々。一見ノーマルな和装に見えますが、彼女の着物も下半身が西洋のお姫様みたいになっています

また、衣装のインパクトに負けてすっかり隠れてしまっていますが、背景に使われているCGの凄さも見逃せないポイント。紀里谷監督のデビュー作『CASSHERN』でも映像の美しさは話題になりましたが、本作ではそれがさらにパワーアップしています。

因縁の対決シーンではふんだんにCGが使われた

……もっとも、わざわざCGを使って城の天守閣に変な角とか付けなくてもよかったんじゃないかとは思いましたけど。

ええと……色々な意味でギリギリの映画だなということがわかっていただけたかと思うのですが、そうしたトンデモを除けば、ストーリーは割とちゃんとした戦国物であり、多くのオリジナル要素を加えつつも最後まで破たんせずにまとめきったバランス感覚はお見事。歴史的事実もきちんと織り込まれてあるので、歴史に詳しい人の方が「そうきたか!」という驚きもあって、面白く見られるかもしれません。

若干冗長で説教臭いところもあると感じましたが、全体的にはテンポもよく気になりません。また、「自由を手にするための代償」という本作のテーマも、現代の鬱積した空気によく合っていて、きっと見終わったときには何か感じるものがあることでしょう。 そして、初めに僕が書いたことの意味がわかるはずです。 確かに、『五右衛門』じゃなくて『GOEMON』だったな、と。

――以上、戦国物のフリをしたSF映画『GOEMON』の正しい鑑賞方法でした。

5月1日(金)丸の内ピカデリー1他全国ロードショー

(C) 2009「GOEMON」パートナーズ