JR東日本 研究開発センター フロンティアサービス研究所 ユビキタスソリューショングループ グループリーダー 中川剛志氏

マルチメディア推進フォーラムは4月10日、フォーラム「人体近傍電界通信の動向と新市場発掘に向けたアプリケーション」を開催した。同フォーラムでは、JR東日本 研究開発センター フロンティアサービス研究所 ユビキタスソリューショングループ グループリーダーである中川剛志氏が、同社の快適・利便な駅を実現するための構想「Smart Station」において人体通信をどのように活用していくかについて講演を行ったので紹介しよう。

同社では、「顧客の識別」、「顧客の位置・状況の把握」、「顧客の趣味・嗜好の把握」を実現するために、「Smart Station」という構想を打ち立てている。同構想では、出発地から目的地までさまざまな技術を用いて、顧客に便利な情報提供を行っていく。そのための技術の1つとして、「人体通信の利用を想定している」と同氏。

具体的には、「わかりやすい運行情報提供」、「情報案内サービス」、「ユビキタス情報空間構築」、「Suicaと連携した情報提供」、「人体通信を用いた情報提供」の実現が進められている。

人体通信とは多少話がずれるが、身近な駅の話題ということで興味深いので、Smart Stationの例をいくつか紹介しよう。

異常時の運行情報の提供を改善

同社の「顧客満足度調査」によって、「駅での情報提供」に関する満足度、特に異常時の情報提供に関する満足度が低いことがわかったという。そのため、同社は乗客にわかりやすく運行情報を伝えるために新たな手を打つことにした。

その1つは、同一ディスプレイ上に、異常時運行情報を路線図でビジュアル化し、また、振り替え輸送の案内を駅ごとにカスタマイズして示すというものだ。異常が発生している路線は赤色で表示することで、乗客が一目で異常が発生していることを理解できるようにしたという。2006年度は19駅の改札口に導入された。

もう1つは列車の位置情報を知らせる試みだ。フィールド試験はLEDディスプレイやLED・音声・Webカメラから構成された「ITかかし」などを用いて行われた。山手線など、複雑な運行状況の路線でも対処できるようにするのが大変だったそうだ。

人体通信でタッチ&ゴーではなくウォーキング&スルーに

同社では、2006年度から2007年度にかけて、Suicaと人体通信の双方において利用できるセンシングエリアの開発に取り組んだ。具体的には、Suicaの中にFelicaリーダと人体通信用の装置であるRedTacton(NTTの人体通信技術)電極を配置した。「干渉するものを1つの装置に埋め込んだので大変だった」と同氏。

この活用事例としては、既存の視覚障害者用の案内板日英の音声案内を付加し、触った場所までの音声案内を行うというものが紹介された。

同氏は、人体通信を鉄道に応用する際の課題として、「Suicaなどの鉄道系ICカードシステムとの協調」、「装置の小型化・軽量化」、「設置・メンテナンスに要する手間とコストの低減」、「セキュリティ」を挙げた。

「装置が小型で軽量であることはさることながら、携帯電話など、誰もが普段持っているデバイスに機能を追加するのがベスト。また、鉄道は終電から始発までの時間が数時間しかないため、設備を新設することが難しい。できるだけインフラの負担が少ないことが重要」

同氏は未来の駅の予想図を示した。そこでは、まず、乗客は人体通信の装置として「ウェアラブルSuica」を携行する。これにより、改札は歩くだけで通過することでき、乗客の進行方向はタイル上にセンサーで示される。ウェアラブルSuicaと駅側のシステムは常に情報をやり取りしており、乗客に必要な情報を大画面に表示するなど、個人に応じた情報提供やチケッティングが可能になる。

つまり、乗客はこの未来の駅の構内では「歩く」「触る」といった自然な動作を行うだけで、自身が行いたいことができてしまう。「あれはどこにあるの?」、「ここに行くためにはどうすればいいの?」と悩むこともなくなるというわけだ。

普段何気なく利用している駅だが、ITによって着実に進化を続けており、さらに、人体通信によって利便性が高まるという可能性を秘めている。身近かつ公共の場である駅だからこそ、「便利になること」の意義が大きいだろう。これから人体通信がどのように私たちの生活にかかわってくるのか、非常に興味深い。