ポータブル医療機器向けマイコン

Texas Instruments(TI)の日本法人である日本テキサス・インスツルメンツは4月23日、同社の低消費電力16ビットRISC型マイコン「MSP430」ファミリとして、ポータブル医療/計測機器向けに、ΣΔ型16ビットA/Dコンバータ(ADC)などのペリフェラルを同一チップ上に集積した「FG47x」シリーズを発表した。すでに出荷を開始しており、1,000個受注時の単価は参考価格で743円からとしている。

MSP430FG47xのBGAパッケージ(パッケージは7.1mm×7.1mmの113ピンBGAのほか、14.2mm×14.2mmの80ピンLQFPが用意されている)

現在、医療機器市場は、世界的な高齢化の進行などを背景に拡大を続けている。同社では、こうしたことを踏まえ、医療機器分野の市場セグメントを「ポータブル医療/ヘルスケア機器」「診断装置/生体情報モニタリング」「画像診断装置」「医療計測機器」に分け、それぞれに応じたビジネスの展開を行ってきた。

同社の営業・技術本部 ビジネス・デベロップメント シグナルチェーン 主査の鈴木巧氏は、「中でもポータブル医療/ヘルスケア機器には、"サイズの小型化"、"部品点数の極小化"、"アナログ特性の向上"、"低消費電力性"といった機能が要求されている」と語る。また、将来は有線/無線の通信機能を活用するほか、人体無線網(BAN:Body Area Network)や環境発電を利用した自己発電システム(エナジーハーベスト)との連携によって「ローパワーからノーパワーへの発展を目指す」(同)とする。

左が日本テキサス・インスツルメンツの営業・技術本部 ビジネス・デベロップメント シグナルチェーン 主査の鈴木巧氏、右が同営業・技術本部 ビジネス・デベロップメント カタログ プロセッサ&コントローラ MSP430 MCUグループ グループマネージャの高瀬健男氏

低消費電力性に強みを持つMSP430

低消費電力に強みを持つというMSP430の内、FG47xは、ポータブル医療機器の要求に応えられる機能を搭載したマイコンに仕上がっているが、そもそも、同製品が属するMSP430は水道メータやガスメータといったユーティリティメータでの活用を目的に開発されたもので、「そこでの要求は電池の交換をしないで10年は使用できるものが欲しいというものであった」と同社営業・技術本部 ビジネス・デベロップメント カタログ プロセッサ&コントローラ MSP430 MCUグループ グループマネージャの高瀬健男氏は、MSP430の成り立ちを語る。

MSP430のロードマップ(今回のFx4xxシリーズのほか、用途に応じて1x/2x/5x/6xといったシリーズが展開されている)

MSP430が狙う事業分野は主に4つ

MSP430はその後、同様にバッテリで長期間使用される建物内の煙や熱の感知器や侵入検知のアラームシステムといったセンサに組み込まれ、その低消費電力性から医療関係機器として血糖値計やコレステロール計、体温計、血中酸素計などに組み込まれてきた。最近では、デジタルカメラやポータブルメディアプレーヤ、電動歯ブラシといった民生機器にも適用が進んでいるという。

MSP430の特長

ちなみに、MSP430は0.8μAでリアルタイムクロック(RTC)動作が可能なほか、立ち上がり速度6μsを実現することで、他のマイコンと比べて低消費電力を実現しているという。

立ち上がり時間6μsの説明図

競合マイコンとの電力比較(リーク電流やBOR(Brown-Out Reset)での低消費電力性は他社マイコンとは桁が違うという)

コードサイズならびに命令サイクルの比較(処理性能はコードサイズと命令サイクルの積と相関なので、いずれも小さい方が高速な処理が可能となる)

ポータブル医療機器の1チップ化

FG47xは、先述の16ビットADCのほか、オペアンプ、コンパレータ、12ビットD/Aコンバータ(DAC)を1チップ上に集積、これにより1チップ上でシグナルチェーンを完結することが可能となり、ボード面積や部品点数の削減が可能となる。また、「アナログ半導体が外部に出ていないため、個々にキャリブレーションを行う必要がないほか、その時々の値に応じて、自己で温度などを加味した処理が可能となる」(高瀬氏)といったメリットもあるという。

MSP430FG47xの各種特長

さらに、コントラスト・コントロール付きのLCDドライバを内蔵。これにより128セグメントのLCD表示が可能となる。

このほか、Fx4xxシリーズとしては初めてチップ上で使用していない部分だけをスリープモードにする機能を搭載したほか、ハードウェアRTCも搭載することで、低消費電力性を増している。

「主に血糖値計メーカーを中心に、デジタル血圧計や血中ガス濃度計、デジタル脈拍/心拍計、デジタル体温計といった分野に注力していく」(鈴木氏)としており、そうしたメーカーに対し、「1チップで処理が可能なため、余計なシステム開発を意識せずに、センサ部分の開発に専念することができるようになる」(同)とする。

ポータブル医療機器向けのブロック・ダイアグラム

血糖値計のシステム構築例

なお、鈴木氏はポータブル医療機器への取り組みを通じて、「医療機器などの新規分野での売り上げを増やすことで、日本での売上増に貢献し、TIの全世界における日本の売り上げ比率を高めていければ」(同)との抱負を語っている。