手軽なマイコンボード

ここのところ、Arduinoという単語をいろいろなところで目にするようになった。ArduinoはAtmelのAVRマイコンを使ったマイコンボードだが、日本でも3,000円程度で入手することができるという手軽さと、Arduino IDEと呼ばれる分かりやすい開発環境が好評だ。

今までのマイコンボードというと開発環境の構築、特にマイコン内蔵のROMにプログラムを書き込む装置を準備するだけでうんざりしてしまうことが普通だったのだが、Arduinoはその心配をしなくてもよいのも好評な理由の1つだろう。USB-シリアル変換ICをボードに載せてしまい、書き込みソフトウェアを開発環境に入れてしまったために書き込みについて気にしなくてもよくなっている。「難しいことはいいから、マイコンでLEDを印象的に光らせたい」という方々にはちょうど良いボードだと思う。

簡単だと言われてもそれは経験者の言うことで、初めてプログラムを作ろうという人にはやはり難しいものであることに違いはないだろう。そんな人のために書かれたのが今回取り上げる書籍「Arduinoをはじめよう」だ。筆者はArduinoの開発メンバの一人でもあるMassimo Banzi氏で、翻訳を船田巧(古くからのパソコンユーザーには船田戦闘機という名前の方がしっくりくるかもしれない)氏が担当している。タイトルこそ「Arduinoをはじめよう」となっているが実際はその前の段階、自分で電子回路を作る意義や電子工作を行う際の心得から書き始めているのが大きな特徴と言えるだろう。この章で述べていることはArduinoに限らず、GAINERや他のマイコンボード、電子回路を製作する時にもとても有効な情報になるはずだ。

電子回路を作る意義や電子工作を行う際の心得から書き始めているのが特徴となっている「Arduinoをはじめよう」

次の章からは実際にArduinoを用いてLEDを点灯させたりセンサから情報を取り込んだりしている。順序を踏んで説明されているので実際に試しながら読み進めていくとわかりやすいと思う。

そして後半はArduinoリファレンスが掲載されている。これは日本語版で追加された部分だ。Arduino言語の説明が辞書的な形で網羅されている。これは武蔵野電波のWebサイトでも読むことができるのだが、実際にプログラミングをしているときはやはり紙であった方が格段に便利だ。

トートバッグ+LED

そんなわけで、筆者も1つ電子工作をやってみた。基板やブレッドボード上でやるのではおもしろくないので、昨年秋に多摩で開催されたMake Tokyo Meeting 02で購入したみつばちトートのトートバッグにフルカラーLEDを付けてみた。核になるのはLilyPad Arduino。Arduinoと互換性があるマイコンボードで、花の形がすてきな一品だ。これとLEDをつなぐわけだが、ここで使うのは電線ではなく導電糸という電流が流れる糸だ。電線と違ってちょっと電流が流れにくいのだが(10cmで27Ωほど)どのみちLEDをつなぐときは抵抗を入れないといけないので、あまり気にしないことにした。本来は抵抗値を計算して糸の長さを調節して使うようだ。

みつばちトートに電子回路を縫い付けてみるの図(普段使いのトートバッグなので汚いのはご勘弁あれ)

まずは電線をつないでArduinoのプログラムを作成してみた。ArduinoではAVRマイコンのPWM機能を簡単に扱うことができるので、それを利用してフルカラーLEDを制御してみた。動作確認をした後、裁縫にとりかかったのだが何十年ぶりかの裁縫で初めのうちは大変だったもののだんだん慣れてきて楽しくなってきた。いつもは電子工作というと固い基板相手が普通なのだが、柔らかい素材相手というのもたまには面白い。今回はLED1つなので今一つぱっとしない結果になってしまったが、LilyPad Arduino用のスイッチや加速度センサ基板も用意されているので、それらを一緒に使えばいろいろと凝った事もできるだろう。

縫い物電子工作の拡大写真(糸のように見えるのが導電糸で、電流を流すことができる。電源はリチウム電池のCR-2032を利用した)

話は書籍に戻るが、電子工作に興味はあるけどちょっと敷居が高くてと思っている人、Arduinoという名前は聞いたけどどんなものだかもうちょっとよく知りたい人などにはちょうどいい難しさと分量の本なので、ぜひ手にとってみるとよいと思う。

「Arduinoをはじめよう」

Massimo Banzi 著
船田 巧 訳
オライリージャパン
2009年3月26日 発行
216ページ
ISBN978-4-87311-398-2
定価 2,100円