世界的なヌードフォトの鬼才、篠山紀信氏の写真展『NUDE!! NO NUDE!? by KISHIN』が、東京・恵比寿にあるアートコンプレックス、NADiff A/P/A/R/Tにおいて開催されている。会期は4月22日まで。篠山氏の50年におよぶヌードフォトを集めた写真集『NUDE by KISHIN』(朝日出版社)と連動し、NADiff A/P/A/R/T全館を使い、4つのギャラリーがそれぞれのテイストにあった篠山作品を展示している。

NADiff A/P/A/R/T全館を使っての展覧会だ

1Fのアート書店NADiff a/p/a/r/t(※)では「NUDE by KISHIN」をはじめ、篠山氏のレアな写真集を販売、B1のNADiff galleryでは写真集『NO NUDE2 AKARUI KIRARA』から明日花キララさんのカラーと未発表モノクロ作品を特別展示している。2FのG/P GalleryとArtJam Contemporaryでは、本展をプロデュースした編集者で京都造形芸術大学教授の後藤繁雄氏がディレクションによる篠山紀信個展『ヴィンテージ・タイム・フォトグラフィ』として、篠山氏が1960~70年代に撮影した作品を展示している。ArtJam Contemporaryでは60年代の写真を大きく引き延ばしたニュープリントを、G/P Galleryでは、秋川リサさんやカルメンマキさんの貴重なヴィンテージ・フォトを展示している。また、タブロイド判の写真集『Lumen #04:Vintage Time PHOTOGRAPHY』(1,000部限定)も。3Fの現代アート専門ギャラリー、magical, ARTROOMでは、篠山氏が血気盛んな1968年に撮影した幻のソラリゼーション作品『PHANTOM』を公開している。さらに同ギャラリーの岡田聡氏がオーナーを務める4Fの喫茶&スナックMAGIC ROOM??では、篠山氏が明日花さんを店内で撮りおろし、その写真を撮影した同じ場所に展示するというユニークなスタイルで展示されている。

※NADiffの店舗は小文字で「a/p/a/r/t」、ビル全体は大文字で「A/P/A/R/T」と表記する。

「撮られるのは慣れていない」と苦笑いをする篠山紀信氏

篠山氏と言えば、グラビア界の最前線で活躍するフォトグラファーというイメージが強い。1991年には、当時トップアイドルだった宮沢りえの「Santa Fe」でヘアヌードブームを巻き起こすなど、常に時代の最先端を走ってきた。そうした面とはまた別に、落語家や歌舞伎役者を撮り続けたり、いち早くデジタルカメラを駆使して別名義の活動を行なったり、東京ディズニーリゾートでキャラクターを撮影するなど、一側面では終わらないのが篠山氏のもう一つの顔と言える。 ジョン・レノンのラストアルバム『ダブル・ファンタジー』のジャケットを撮影したのも篠山氏と聞けば、彼がただ"ハダカ"ばかり撮っている写真家ではない事はお分かりいただけるだろう。

それでも一部の写真評論家から避けられ、熱心な写真ファンからは軽んぜられる事もあるのは、一つ所にいるのを自ら拒むかのように、時代によって表現が変わり、定義付けを許さない事にあるかもしれない。篠山氏は「自分を芸術家の仲間に入れたくない。コンプレックスがあるんだろうね」と語っている。しかし、この多彩さがあるからこそ、本展のように4つの性格の異なるギャラリーがひとりの作家を同時に取り上げることができるという離れ業をやってのけられるのだろう。いまなぜ、これほどまでにアート界がKISHINに注目するのか? その真相を探りに足を運んでみてはいかがだろう。

NADiff galleryでは明日花さんの明るくポップな表情と妖しく渋めな表情の作品が

ArtJam Contemporaryには60年代の名作がニュープリントで展示されている

今回、貴重な「ベタ帖」も公開された。ここに眠っていた作品が数多く掘り起こされた

1968年のソラリゼーション作品。雑誌に掲載しただけで保管されてあったものが、今回、はじめて公開となった

4FのMAGIC ROOM??では、店内で撮った写真をその場に展示している。ライブ感が楽しい

篠山紀信写真集『NUDE by KISHIN』(朝日出版社)。後藤繁雄氏の特別編集、アートディレクションは2008年度ADC賞グランプリの井上嗣也氏だ