Linuxカーネルが2.6.27に変更

Wind Riverは3月16日(現地時間)、同社の組み込み向けOS「Wind River Linux 3.0」を発表した。これに伴い、同社の日本法人であるウインドリバーは4月7日、記者向けに技術説明会を開催、Wind River Linux 3.0の説明を行った。

ウインドリバーの営業技術本部 第1営技術部 部長である田中謙一氏

同3.0は、既報のとおり、前バージョンのLinuxカーネル2.6.21から同2.6.27に引き上げられている。また、CGL(Carrier Grade Linux) 4.0をサポートしたことにより、x86およびPowerPCに加え、MIPSアーキテクチャのサポートが可能になったという。これについて、ウインドリバーの営業技術本部 第1営技術部 部長の田中謙一氏は、「ユーザデータの送受信を行うU-Plane(User Plane)で用いられるネットワークプロセッサの多くがMIPSアーキテクチャを用いているのが最近の傾向であり、それに対応する必要があった」とMIPSアーキテクチャへの対応の意図を語る。

MIPSアーキテクチャもサポート

このほか、Wind River Linux 3.0の新機能としてはVxWORKS 6.7の説明時に明らかにされたハイパーバイザのサポートのほか、リアルタイム機能の強化として「Real-Time Core」「Preempt_RT」に加え「Preempt_IRQ」の追加、Boot時間解析ツールの提供などが施されている。

Wind River Linux 3.0 Kernelの新機能各種

特にリアルタイム性は、3種類をサポートしたことで、各種の揺らぎ時間をベンチマーク比較すると最悪値で0~50μsの領域はReal-Time Core、最悪値で50~100μsの領域はPreempt_RT、最悪値が100μs以上の領域はPreempt_IRQといった区分けが可能となった。

リアルタイム性能のベンチマーク比較

また、Boot時間解析ツールはBoot時の各プロセスにかかる時間をグラフで表示するツールであり、これを用いることで、どのプロセスで時間を多くかかっているかを理解することが可能となり、製品開発時の起動時間のチューニングを向上させることが可能になるという。

Linux Boot時間解析ツールの使用例

グラフィックや通信なども強化

同Linux 3.0はパッケージとしてもX.org、GNOME、GTK+、OpenGLなどのグラフィック対応が施されているほか、GStreamerのサポートにより動画などのマルチメディア系のデータの取り扱いが容易になっている。また、ネットワーク機能の拡張として、「組み込みの世界でもワイヤレス機能は必須事項となってきている」(同)としており、BluetoothやWi-Fiへの対応が図られている。

Wind River Linux 3.0 パッケージアップデート

このほか、パッケージモデルも大幅に変更が施されている。従来はPlatform for Network Equipment(PNE)やPlatform for Consumer Devices(PCD)、General Purpose Platform(GPP)といった各プラットフォームを用意、そこに応じたプロセッサを搭載したそれぞれに向けたBSP(Board Support Package)を提供するといったように複雑だった。同Linux 3.0からは「Wind River Linux 3.0 Platform」と呼ぶプラットフォームに統一、ハードウェアのしばりを無くし、それぞれの分野に向けCPUの選択肢を増やしたほか、ライセンスを個別に管理する必要を無くし、ライセンス管理の負担を軽減している。

パッケージモデルがシンプルなものに変更された

Wind River Linux 3.0プラットフォームの概念図

さらに、用途に応じたプロファイルセットを用意。これにより、各分野のカーネルを簡単に構築することが可能となり、各種の機器開発の負担を減らすことが可能となっている。現在、CGLカーネル/ファイルシステムの「Pne(Profile for network equipment)」、PneにeCGLを加えた「Epne(Enhanced profile for network equipment)」、標準カーネル+CGLファイルシステムのLpne(Light profile for network equipment)」などのほか、コンシューマ機器向け、産業機器向け、携帯機器向けの計6種類が用意されている。

用意されているプロファイルセット各種

このほか、同社が2009年2月に買収したカナダTlicon SoftwareのGUI作成技術を応用した「Tilcon Advanced Visual UI Builder」も含まれている。同ツールは、Adobeデザインツールと統合が可能であり、コード無しでUIの動作確認が可能なほか、コード変更およびコンパイルが不要といった特長を有している。

Wind RiverによるTilconのグラフィックス技術の活用と「Tilcon Advanced Visual UI Builder」

なお、ウインドリバーの営業本部 第一営業部 営業部著の桜井宗男氏は、「Wind River Linux 3.0はプラットフォームを一本化し、全領域に対しスムーズに提供できるようにシンプルにしました。これは、Linuxをより効率的に使いこなすプラットフォームとなったことを意味しており、CPUライブラリに依存しない開発が可能になる」とし、国内でのWind River Linuxの採用が2008年頃からNGNを含めた通信キャリアを中心に伸び始めてきており、「今回のバージョンアップによりこの伸びを2~3倍にすること、ならびにコンシューマ分野での採用拡大を狙っていく」(同)とした。