富士通は、4月1日付けで、富士通シーメンス・コンピューターズを100%出資子会社化し、社名を富士通テクノロジー・ソリューションズ(略称FTC)とすることを発表した。同時に、2年後には、IAサーバーの出荷台数を現在の1.8倍規模とする計画も打ち出した。

富士通テクノロジー・ソリューションズ(略称FTC)誕生へ

富士通 野副州旦社長

富士通の野副州旦社長は、「富士通のメインセグメントであるテクノロジー・ソリューションを、そのまま社名とした。同社の統合は、富士通のグローバル化に向けた変革の軸になる」とし、グローバル化推進を加速する試金石にする考えを示した。また、IAサーバーの出荷台数を、2008年実績で、全世界年間27万台、4%のグローバルシェアを、2010年には年間50万台以上、長期的には10%以上のシェア獲得を目指すとした。

加えて、日本では、現在、国内で14%(第4位)に留まっているシェアを、2O10年度には20万台の出荷台数、シェア30%以上を獲得し、首位奪取を狙うという。

「経済環境が悪化しているなかで、わずか2年間で全世界でほぼ倍増、日本で倍増以上という目標は容易ではない。だが、50万台という数字は、富士通がグローバル化するためのマイルストーンだと考えている。過去10年以上に渡って、富士通がグローバル化に関して行ってきた議論よりも、充実した議論をこの半年間で行ってきた。50万台の数値目標は、富士通が初めてグローバルで共有する数値目標となる」(野副社長)とした。

富士通 富田達夫副社長

富田達夫副社長は、「全世界でも、4強といわれるところに入りたいと考えている。50万台は通過点であり、その後の成長にも取り組んでいく」とした。

4月出荷モデルからグローバルに統一した製品を提供するとともに、監視ソフトである「Server View」を全世界統一の製品として提供。保守部品のグローバル最適配置化を進めることで、グローバルで競争力を持った製品供給体制を確立。さらに、PRIMEGYの開発業務をドイツ・アウグスブルグにある同社に集約し、プロダクト上級幹部およびブレードサーバーの開発部隊を派遣するなど、体制の一本化による開発スピードのアップを図る。体制一本化においては、製品評価で重複している部分では、富士通側の重複部を排除。日本ではBTO対応などでの検査に限定することにも踏み込む。また、量産共通化に向けた製造、試験内容の共通化も図る。

また、世界規模での最適な製造体制の確立を目指し、ドイツ・アウグスブルグと日本の福島(富士通アイソテック)でグローバルに全世界をカバーする体制とし、将来的にはアウグスブルグ工場が中心となり、世界の他地域における生産工場立ち上げのサポートを行う。

一方で、サプライチェーンの最適化による、コスト競争力強化を目指し、グローバル調達センターを設立し、調達窓口を一本化するほか、部材ごとに共通の調達戦略を策定し、価格交渉力の最大化を進める。台湾や中国の調達部隊についても、2009年度上期中に統合し、グローバルに統一された調達体制を整える。

また、品質、コスト、納期に関して最適化を図るために、リードタイム、納期回答遵守率、SCMコスト、在庫回転率といった点で共通の評価指標を策定し、富士通と富士通テクノロジー・ソリューションズでお互いにベンチマーク評価を行うことにする。

富士通 リチャード・クリストウ経営執行役上席常務

そのほか、新製品の早期市場投入を加速し、5月には大規模ブレードサーバーを発表する計画を明らかにした。

富士通・リチャード・クリストウ経営執行役上席常務は、「これまでは、日本と、欧州における商品企画、サプライチェーン、調達、開発、設計がバラバラであり、プロモーションに関してもバラバラであった。今回の完全子会社化によって、これらがグローバルに統合できる。また、グローバルマーケティング機能を新設し、グローバルビジネス本部を、マーケティング、デリバリー、クライアントマネジメント、ファイナンスコンプライアンスの4つの機能に再編し、グローバルに支援する体制を整える」とした。

グローバル本部を再編

さらに、「販売、サービスという点では、地域の特性を生かした形で推進していく必要性がある」として、米国では、製品、コンサルティング、ソリューションをトータルで提供するFujitsu America Incを4月1日付けで設立。欧州では、富士通サービスと富士通テクノロジー・ソリューションズとの連携により、ITソリューション、製品、コンサルティングを提供できる体制を構築。中国では、中国南部と中国北部を担当する2つの販売体制へと再編。APACでは、シンガポールでの本部機能を強化するとともに、オートスラリアおよびニュージーランドでのプレゼンス向上を目指し、先頃、ITサービスを提供するKAZを買収するといった動きを開始した。

「富士通テクノロジー・ソリューションズへの変革によって、プロダクトビジネスからシステムビジネスへと進化できる」(クリストウ経営執行役上席常務)としている。

プロダクトビジネスからシステムビジネスへ

一方で、昨年11月の富士通シーメンス・コンピューターズの100%子会社化の発表以降、富士通では国内のサーバー事業の体制変更にも着手しており、2008年12月には、PRIMEQUESTとPRIMERGYの事業部をひとつの本部に集約してIAサーバー事業本部を設置したのに続き、2009年2月には、国内販売推進部隊、パートナー支援/営業部隊、技術支援部隊の3本部を集約して、プラットフォームソリューションビジネスグループを設置。ワンストップで営業、SE、パートナーをサポートする体制を整えた。4月からは、新たに国内営業体制の強化に乗り出し、全国の富士通直販営業部隊のなかにプラットフォーム専門営業を設置するとともに、新規パートナーおよび2次販売代理店の開拓専門部隊を設置する。

国内における2010年度年間20万台の出荷に向けた拡販戦略としては、商品ラインアップの拡充とともに、競争力のある価格設定に取り組むほか、ITインフラデリバリサービス(インフラ工業化)の拡大による導入および構築の簡便化、迅速化のほか、長期保守モデルの投入を図る。

加えて、パートナー支援として、技術支援体制、構成見積支援体制、パートナーの提案力強化に向けた提案資材の提供や共同開発、パートナープログラムの強化などにも取り組む。

「国内で20万台を販売するには、いまの富士通の事業のやり方では通用しない。販売体制を新たに作り込むことが大切。単に数字を追うだけでは価格競争に陥るだけ。事業をじり貧にする可能性がある。低価格のなかでも利益を確保できるようにすること、外部チャネルに売ってもらうための動機づけをすることが大切だ」などとして、低価格路線に踏み込む考えがないことを示した。

富士通 松原信経営執行役常務

国内IAサーバービジネスを担当する富士通・松原信経営執行役常務も、「今後、プラットフォームを機軸に売る営業体制を整えていく。4月中旬には、パートナーに対して施策を提示する予定」とした。

一方、完全子会社化に伴う、パソコンビジネスに関しても方針を明らかにした。

これまで富士通シーメンス・コンピューターズで推進してきた欧州でのパソコンビジネスは、引き続き、富士通テクノロジー・ソリューションズを通じて推進。製品ブランドを、「FUJITSU」に統一し、より付加価値の高い製品中心のポートフォリオへとシフトするという。

また、グローバルなIT総合ベンダーとして、製品やサポートを統一し、顧客への提供価値を大きく高めることを狙い、グローバルサプライチェーンマネジメント体制による効率化とコストダウン、グローバルにサービスおよびサポート体制の確立にも取り組むという。

「パソコン事業は日本と欧州に集中しており、まずここでのポートフォリオを見直す。現時点では、IAサーバーのように具体的な数値目標を持っているわけではない。川崎、島根、福島、ドイツの体制は現在と変わらない。部材調達もグローバルで契約し、その上でそれぞれの生産拠点に納入する形をとる。まずは、収益の改善が最初の課題であり、国内で3%の営業利益率の確保などがパソコン事業における課題」(富田副社長)などとした。

野副社長も、「パソコンでは年間800万台前後を全世界で生産しており、重複部分の削減や、効率化によるコスト削減の効果が、我々の予想を上回るのではないかと大きく期待できる。1台あたり1円のコストダウンができただけでも、800万台規模に影響し、統合した効果は大きい」とした。

なお、IBMによるサン買収の報道については、「顧客起点ということを考えれば、IBMとサンの交渉がどう終わろうと、UNIXの資産をきちっと守り抜くのが当社の役割。今後、IAサーバーに力を注いでも、PRIMEQUESTもUNIXも継続する。ラインアップを減らすことは考えていない」(野副社長)とした。

また、野副社長は、「富士通が、これまでマーケットの動きに追随できていたかというと、十分ではなかった。メインフレームからオープン環境に変化するなかで、富士通のリソースが変化を遂げられていたかというとノーである。メインフレーム時代からの莫大な資産があり、これがストックビジネスとなり、社員数万人を食わせるだけの収益源となっていた。急激に体質を変える必要がなかったことが背景にある」などとして、オープン化や、ソフト・サービス事業への転換に遅れがあったことにも言及した。