ルネサス テクノロジは3月25日、同社の次世代CPUコアとして位置づけられてきた「RXファミリ」搭載マイコンの第1弾製品として、32ビットマイコン「RX610グループ」8品種を製品化したことを発表した。

「RX610グループ」の内、「RX6108V」および「RX6108W」の外観

RXコアは同社の16ビットおよび32ビットCISCマイコンの統合ならびに置き換えを狙う次世代マイコン向け32ビットCPUコアであり、従来の32ビットマイコン「R32C」「H8SX」の分野を高速・高性能を追求した「RX600シリーズ」で、同16ビットマイコン「M16C」「H8S」の分野を低消費電力および低電圧を追求した「RX200シリーズ」でそれぞれカバーしていく計画。

7コアから3コアへと統合することで、製品力強化と開発力向上を狙う

同社が持つ16ビットでの優位性の維持と32ビットでのシェア拡大の両立を図るために開発されたのがRXである

高性能分野にはRX600を、低消費電力が求められる分野にはRX200を適用する予定(この2シリーズについては、まったくの別系統の製品となるとのこと)

コアの特長としては、同社保有の実アプリケーションソフトから高頻出命令を抽出し、命令コードを短縮したほか、最短1バイトから最長8バイトにわたるバイト単位の可変長命令の採用、アドレッシングモードの追加/改良、3オペランドフォーマットの採用などにより、従来比でコード効率を30%向上させた。

コード効率のベンチマーク(コードサイズ)の結果(コードサイズを実効アプリケーションで比較した図)

また、5段パイプラインやハーバードアーキテクチャの採用、Out-of-Order Completionの対応による動作周波数200MHzの達成ならびに、処理性能165MIPS/MHzを実現している。さらに、DSPの機能強化やFPUの搭載を行ったほか、割り込み応答性が向上する機構の採用により、割り込み応答を従来比約50%向上させることにも成功している。

Dhrystone 2.1によるベンチマークテスト

加えて、90nmプロセスの採用による負荷容量の低減、動作シーケンスを判断し使用しないロジック部のクロック供給をダイナミックに停止する設計手法、マルチスレッショルドセルによる通常動作時のリーク電流低減ならびに高速動作と低消費電力の両立、独自技術によるMONOS型フラッシュメモリの採用などの技術を用いたことにより、消費電力は従来品比1/3となる0.03mA/MHzを実現している。

今回製品化されたRX610グループは、RX600シリーズに属する製品となり、OA機器やデジタル民生、産業機器などの幅広い分野への適用が期待されている。

ルネサス テクノロジ 業務執行役員 マイコン統括本部 副本部長 兼 マイコン第一事業部 事業部長の水垣重生氏

こうしたRXの立ち居地について、同社業務執行役員 マイコン統括本部 副本部長 兼 マイコン第一事業部 事業部長の水垣重生氏は、「H8、M16C、H8SX、R32CのDNAを受け継ぐ"次世代の制御用CPU"であり、32ビットでありながら16ビットもカバーすることで、既存の資産を生かしながら新たな拡張にも対応していく」と語る。

既存の資産を活用するために新たに開発プラットフォームを開発。既存製品および新規の周辺機能の搭載を容易にすることで、TATの短縮化、横展開の速度向上、使い勝手の向上などが図れるとしている。

従来製品と新規の周辺機能のIPをプラットフォームとしてラインナップすることで搭載を容易化

ルネサス テクノロジ マイコン統括部 マイコン製品技術統括部 マイコン製品技術第一部 主管技師 堀内健二氏

同プラットフォームは主にOA分野での適用を想定しており、「産業機器や民生、自動車といった分野には、それぞれに適したプラットフォームを用意していく」(同社マイコン統括部 マイコン製品技術統括部 マイコン製品技術第一部 主管技師 堀内健二氏)という。

RXファミリのロードマップ(各分野に応じたプラットフォームが提供されていくという)

RX610グループは、プログラム格納用として、768KB/1MB/1.5MB/2MBのMONOSフラッシュメモリを搭載、最高動作周波数は100MHzで、動作時電流50mAを実現しているほか、100MHzまでノーウェイトでの1サイクルアクセスを実現している。また、32KBのBGO(Back Ground Operation機能)付きデータフラッシュメモリや128KBのSRAMも搭載しており、プログラムの実行中でも、並行してデータの書き込みが可能なことからバックアップ用途などにも活用可能である。

最上位品となるRX6108の製品仕様

RX6108のチップ写真

100MHzでノーウェイトを実現

従来品との消費電力比較

ルネサスの組み込み向け不揮発性メモリ技術のロードマップ(MONOS型については、65nm以降の微細化にもめどが立っているとのこと。また、MRAMに関しても、時期を見極めて別製品として立ち上げて行く予定とのこと)

さらに、各種タイマやデータトランスファコントローラ(DTC)、変換速度1μsの10ビットA/Dコンバータ、10ビットD/Aコンバータ、CRC演算器などの周辺機能を搭載することで、従来製品との互換性を維持、移行の容易化を図っている。

なお、同グループは6月より順次サンプル出荷を開始。価格は1万個ロット時で、2MB品の144ピンLQFP「RX6108V」が930円、同176ピンBGA「RX6108W」が960円となっており、「10ドルを切ることでインパクトを出した」(水垣氏)であり、最低容量となる768KB品については、まだ未定ながらも「4~5ドルもしくは、それを切るような値段設定ができれば」(同)との希望を述べた。量産は2010年前半をめどに月産10万個で開始、2011年には月産100万個まで引き上げることを計画している。

「RX610グループ」の製品ラインナップ

CPUコアが新しくなったため、コンパイラも新しくなった(既存のソフトはリコンパイルして使用できるとのこと)

RX6108Vを搭載したスターターキット

RX610グループデモ(スターターキットの上にアナログボードやLCDボードを搭載して音声レベルメーターやFPUなどのデモの表示が可能)

RXマイコンの300mmウェハ(生産はルネサス テクノロジの那珂事業所が担当するとのこと)