東京・渋谷、道玄坂の中腹から東急Bunkamuraへ至る道、渋谷の"奥"といえるその場所に1軒の映画館がある。「ユーロスペース」だ。シネコンや大手映画会社系列の劇場で公開される映画とは全く違った文法で語られる作品を上映している、いわゆる"ミニシアター"。ここでしか観られない作品が多く、映画好きならミニシアターと言われて真っ先に挙げる人も多いだろう。

1980年代後半から始まった"ミニシアターブーム"以降、ヨーロッパ映画を中心にした作品群が多くの独立系映画館で上映されたが、その中にあってユーロスペースではアキ・カウリスマキ(『浮き雲』『過去のない男』)、アッバス・キアロスタミ(『友だちのうちはどこ?』『桜桃の味』)など、少し毛色の違う作品が紹介されてきた。また、12人の人々が443分の時間をかけて不在の人物を語る『AA』(青山真治監督)、画家の仕事と生涯に迫るドキュメンタリー『シャガール:ロシアとロバとその他のものに』(フランソワ・レヴィ・クエンツ監督)など、製作・配給を手掛けた作品も多い。

今週末からこの映画館でレイトショー公開される映画『ロストガール』は、同作の監督である山岡大祐氏が自らユーロスペースに持ち込んで上映が決まったのだという。作品について、そして映画を公開するということについて、山岡監督とユーロスペース支配人の北條誠人氏にお話をうかがった。

ユーロスペース支配人の北條誠人氏(左)と山岡大祐監督(右)

ユーロスペースと『ロストガール』

――ユーロスペースはどんな特徴のある映画館なのでしょうか

北條「できて26年ですから、ミニシアターとしては老舗です。神保町や新宿よりも比較的新しい文化都市である渋谷にあるということが、上映される作品にも出ていると思います。インディペンデントな作品のなかでもアジアとか、ヨーロッパでも周辺(東欧、北欧など)の作品をピックアップしています。でも、意識せずに選んでいるところはあるかもしれない。もしかしたらそれは(自分の)体に染みついている選択肢なのなのかもしれません」

――最近、業界の状況が変わっているとのことですが

北條「今まで映画は他の産業からのお金が入ってくることによって活性化されてきていたんですけど、世界で同時にお金がまわらなくなってきたので、外のお金を期待できなくなってきた。制作できない、買い付けできないなど、どうなっていくか時節柄わからない。……こんな話していいんでしょうかね(笑)」

――山岡監督がユーロスペースに作品を持ち込んだ経緯は

山岡「はじめは下北沢のシネマアートにお話を持って行って、上映が決まり、(2008年)10月公開の予定だったんです。でも、宣伝を始めようとした1カ月後くらいにシネマアートが閉館することになってしまい……。早くなんとかしなきゃいけないと思ったんですが、(上映するのが)どこでも良いかというと、そういうわけではない。それなら、自分が一番憧れだった映画館にまずはアタックしてみようと、ユーロスペースに直接電話をかけました」

――映画の製作者自身が映画を持ち込んで来ることはよくあるんですか。

北條「1年くらい前まではよくあったんですが、今は少し減ってますね。持ち込みは基本的にはウェルカム。見る時間があればいいんだけど……」

山岡「持ち込んで2カ月くらい経った頃に、もうだめだろうと思って電話をしたら"OK"の回答で(笑)」

北條「タイミングってありますね。できれば自分が幸せな気持ちのときに決めたい」