会場で最初に出会えるのは、静かに巨体を横たえるゾウ。バールティ・ケールの『その皮膚は己の言語ではない言葉を語る』だ。神話から抜け出してきたようにも見えるが、その面持ちは虚ろで、その全身には精子をかたどったビンディーが細かな模様のように全体に描かれている。ヒンディー教徒の女性の装飾物であるビンディーが精子の形をしている、というのは意味深いものを感じる。ケールはイギリス生まれの女性アーティストであり、祖国インドでの女性のあり方に対して感じる違和感を、強さと知性を表し、尊敬の対象であるゾウに投影しているメッセージ性の高い作品だ。

心因性記憶喪失/バールティ・ケール

その皮膚は己の言語ではない言葉を語る/バールティ・ケール

次に、扉を開いて奥へと誘う門のような作品は、インド美術界の大御所、グラームモハンマド・シェイクの『カーヴァド : 旅する聖堂(家)』だ。ラージャスターン州に伝わる厨子(カーヴァド)を模したもので、巨大な直方体に観音扉を取り付け、開き方によって異なる絵が現れるようになっている。その上の三連スクリーンには、プリント出力に絵の具を塗り重ねるというデジタルコラージュ手法による『マッパ・ムンディ(越境する世界地図)』を投影している。

カーヴァド : 旅する聖堂(家)/グラームモハンマド・シェイク