ドイツの化学メーカーHenkelの日本法人・ヘンケルジャパンは、横浜市のタミヤプラモデルファクトリートレッサ横浜店で12月6日、7日の2日間、「ヘンケル親子プラモデル教室」を開催した。

会場となったタミヤプラモデルファクトリートレッサ横浜店内のアトリエ

同社は洗剤、染毛剤、接着剤などを手がけており、各分野でそれぞれ家庭用、産業用の製品を製造・販売している。日本では、コクヨを通じて販売されている世界初のスティックのり「Pritt(プリット)」や、ネジ止め剤の「Loctite(ロックタイト)」などが有名だが、「ヘンケル」の名を知る人が多いとはいえない。そこで、国産プラモデル50周年にあたる今年、プラモデル製作とは切っても切れない関係にある製品として、同社の接着剤をPRする目的で今回のプラモデル教室は開かれた。

売り場の右側に用意されているのがアトリエ。イベント時以外は作業スペースとしてレンタルされている

会場のタミヤプラモデルファクトリートレッサ横浜店は、大型複合商業施設「トレッサ横浜」の一角にあるタミヤ製品販売店で、プラモデルの組み立てや塗装、撮影などが行えるアトリエを併設しているのが特徴。この日の教室もアトリエを利用して行われ、講師はアトリエに常駐するプロモデラーの長谷川伸二氏が務めた。

会場に招かれたのは12歳までの子どもたちと、その親の12組24名(各日6組12名)。教材はタミヤの「ミニ四駆PRO」で、今回初めて作るという参加者のほうが多かった。ミニ四駆PROの組み立て自体には接着剤は不要だが、独自の改造や各部の強化・補修には不可欠。作業の開始前や合間には、ヘンケルジャパンのスタッフが接着剤に関する豆知識のレクチャーを行った。


教材は「ミニ四駆PRO」。ほとんどの参加者は初めての組み立て

アトリエでは「マスター」と呼ばれているプロモデラーの長谷川伸二さん

まず、家庭でもよく使われるのが瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)だ。接着剤というと「乾くと固まる」イメージがあるが、瞬間接着剤は、実は空気中や被着材表面の微量な水分を触媒として急速な硬化を始める。皮膚に付着したとき、接着しようと思っていたものよりも指先のほうが素早く強力にくっついてしまうことがあるが、これは人の肌が水分を持っており、瞬間接着剤が接着を得意とする素材だからだ。これを防ぐため、小さなものを接着するときはできるだけピンセットなどを使って作業するのが望ましいとのこと。ヘンケルではハケで塗れるタイプの瞬間接着剤もラインナップしている(国内販売はセメダイン)。

もし誤って指などを接着してしまった場合は、無理にはがそうとすると皮膚の表面ごとはがしてしまい、場合によっては出血のおそれもある。瞬間接着剤は水そのものや熱には弱いので、くっついてしまった部分をお湯に入れてゆっくりともむのが正しい解決法となる。それでもはがれない場合は無理をせず病院へ。

機械いじりをする人の間ではネジ止め剤として有名な「ロックタイト」

おそらく日本の一般消費者にとって最もなじみ深いヘンケル製品「プリット」

そして、ネジのゆるみ止めに使われる「ロックタイト」は、さらに変わった特性を持つ接着剤だ。「嫌気性接着剤」と呼ばれており、一般的な事務用接着剤などとは逆に、空気が遮断されると硬化を開始する。この性質により、ネジ山に塗ってから締めることでネジを固定することができ、しかも締め込む前は空気に触れているので固まらないため、ゆっくり作業をしたり、はみ出た部分を容易にふき取ったりできるなど、さまざまなメリットが得られる。

ネジ穴に「ロックタイト」を塗布し、ネジを締め込むと硬化が始まる

偶然にも、タミヤは2000年全日本GT選手権に出場したロックタイト・ゼクセルGT-Rを1/24スケールモデル化している

プラモデル教室では、午前中にミニ四駆PROを通常の手順で一通り完成させ、午後からはグレードアップパーツの取り付けを行った。コース走行時に衝撃が集中するフロントローラーを固定するネジには「ロックタイト」を使用し、走行中の脱落を予防。「ロックタイト」には固定の強度によってさまざまな種類があるが、今回は「242」と呼ばれる中程度の固定強度を持つ製品が使用された。この強度であれば、走行中の衝撃による緩みを防ぎつつ、パーツ交換の際は少し力を入れるだけでネジを取り外すことができる。長谷川氏によれば、ミニ四駆よりも動きの激しいRCカーでは、ネジ止め剤がより積極的に使われているという。

親子で「ミニ四駆PRO」の組み立て・改造にチャレンジ

パーツの取り付けとステッカーなどによるドレスアップが終わり、ノーマル状態とチューンアップ後の性能をスピードチェッカーで比較。モーターの交換などにより1割程度のスピードアップが確認できた。その後プラモデルファクトリーに設置されているコースを利用してレースが行われ、勝ち抜いた参加者がマスター長谷川氏のマシンとの対戦を行った。

チューンナップ前には20~22km/h程度だった速度がチューン後には22~24km/hにアップ。左画像の中で右側に写っているダンプトラックは長谷川マスターのオリジナル

長谷川氏のマシンの速さには子どもたちのみならず、親たちからもどよめきが起こったが、半周ほどでカーブを曲がりきれずコースアウト。長谷川氏の「ただ速ければ勝てるわけではありません。ミニ四駆のセッティングに正解はないんです。今日作ったマシンに、自分なりに考えたいろいろな工夫をして、またレースに参加してみてください」というコメントで教室は締めくくられた。

教室の最後には参加者全員でレースを開催。長谷川氏のマシンは速すぎてコースアウト

この日の会場には、国内の接着剤事業を統括する同社取締役のArnd Picker氏も姿を見せ、自らも子どものころから好きだったというプラモデル作りを楽しんだ。家庭用接着剤ブランドの知名度では国内メーカーにまだ及ばない同社だが、日本にも横浜などに研究開発拠点を置いている。Picker氏によれば、グローバル企業として世界中どこでも高い品質の製品を提供できるのがヘンケルの強みといい、今回のイベントを通じて、同社の製品の良さを日本の一般消費者にも伝えたいとしていた。

イベントの途中で会場を視察に訪れたヘンケルジャパン取締役のArnd Picker氏も、子どもたちにまじってプラモデル作りに参加。今後はイベントなどを通して、同社接着剤の品質の高さを日本の一般消費者にも訴求していきたいと語った

子どもたちからも「マスター、マスター」と慕われる長谷川氏。大型商業施設内という場所柄「最初はもう少しクールにやろうと」していたが、意外にも子供たちが日常的に集まる場所となり「今は昔ながらの"模型屋のオヤジ"になろうと思ってます」