IEDM(International Electron Devices Meeting)初日は午前のプレナリセッションで始まる。まずゼネラルチェアを務めるRalf Brederlow氏(Texas Instruments)が、投稿論文数と採択論文数の推移を示した。

今回の投稿論文数は596件、採択論文数は206件で、採択率は約35%になる。ワシントンDCで開催された昨年のIEDMにおける投稿論文数695件に比べると投稿論文数は少ないものの、前回のサンフランシスコ開催である2006年は609件だったので、サンフランシスコ開催に限れば投稿論文数はほぼ横ばいといえる。

IEDMの投稿論文数と採択論文数の推移(2000年~2008年)

プレナリセッションでは、IEDMの主催者であるIEEEによるいくつかの表彰式が実施されたあと、基調講演が始まった。本レポートでは3件の基調講演の中で、最初の2件の概要をお届けする。

脳神経と半導体の融合

最初の基調講演は、「Max Planck Institute for Biochemistry」のPeter Fromherz氏による「Electronic and Ionic Devices: Semiconductor Chips with Brain Tissue」というタイトルの講演である(講演番号1.1)。Max Planck Instituteでは、シリコン半導体チップと脳神経細胞を結びつけたハイブリッドデバイスを開発するとともに、脳神経細胞の仕組みを解明しようと試みている。講演者のFromherz氏が、最新の研究状況を解説した。

神経細胞とシリコンを結ぶ基本的な素子は、電解質(Electrolyte)と酸化膜、シリコンの3層構造である。電解質に神経細胞を接続することで、神経細胞とシリコンがつながる。神経細胞はイオン伝導で信号を伝達するので、神経細胞が興奮すると電解質側の電位が変動する。例えばもっとも簡単な構造として電解質と酸化膜、シリコンのキャパシタを作れば、神経細胞の状態によってシリコン側に電気信号が伝達される。またシリコン側にソースとドレインを形成し、ゲート部分を電解質とすれば、神経細胞の状態変化によってシリコンFETが動作する。

これをさらに進め、2個のニューロンを近接して置いたハイブリッドデバイスを考える。例えばニューロンとシリコン集積回路のハイブリッドデバイスである。1個のニューロンは信号入力用でトランジスタのゲート電極、もう1個のニューロンは信号出力用でキャパシタ電極になっているとする。ニューロンに入力された信号はトランジスタを経由してシリコンの電気回路で信号処理され、キャパシタを通じてもう1個のニューロンに出力される。

また逆にシリコン集積回路からキャパシタを通じてニューロンに信号を入力し、別の近接したニューロンにシナプスを通じて信号を伝達する。入力信号の強さがシナプスの強さになるので、これを記憶しておけばメモリ素子になる。

講演では、カタツムリとネズミの脳神経細胞をそれぞれ採取し、電解質(Electrolyte)と酸化膜、シリコンの3層構造に接続した研究の事例が数多く紹介された。例えばトランジスタのアレイに神経細胞を載せる。神経細胞はアレイの一部に重なる。神経細胞を刺激すると、アレイと重なる複数のトランジスタから信号を取り出せる。またネズミの脳内で海馬に相当する部分をスライスし、キャパシタアレイやトランジスタアレイなどに載せてプローブで刺激を与え、電気信号を取り出せている。いずれもまだ基礎実験の段階だが、今後が非常に楽しみな研究である。

神経細胞とシリコンのハイブリッドデバイス。2個のニューロンとシリコンのトランジスタまたはキャパシタを結びつける。上の構造では左のニューロンに入力された信号がトランジスタを経由してシリコンの電気回路で信号処理され、キャパシタを通じて右のニューロンに出力される。下の構造では左のキャパシタからニューロンに信号を入力し、右のニューロンにシナプスを通じて信号を伝達する。シナプスの強さは入力信号に依存するので、シナプスを記憶データとするメモリ素子ができる(IEDM 2008の講演論文集から抜粋)

トランジスタのアレイ上に染色可能な細胞を置いたところ(IEDM 2008の講演論文集から抜粋)

トランジスタのリニアアレイ(1列が64トランジスタ)を2列形成したシリコンチップ上に、ネズミの脳(海馬部分)をスライスした細胞を置いたところ。海馬にプローブで電気刺激を与えると、反応した細胞がトランジスタアレイによって記録される(IEDM 2008の講演論文集から抜粋)