半導体ベンダのNECエレクトロニクスは11月14日に東京で記者会見を開催し、現在のアナログテレビ受像機で地上デジタル放送を視聴可能とする安価なチューナに向けたシステムLSI「EMMA2TS」のサンプル出荷を同日に始めたと発表した。総務省および社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)が2007年12月に公表した「「簡易なチューナー」の仕様ガイドライン」に準拠したシステムLSIである。

記者会見に出席したNECエレクトロニクスの担当者。右がSoCシステム事業部長の板垣克彦氏。左がSoCシステム事業部グループマネージャーの野村守氏

国内の地上テレビ放送は、2011年7月24日にアナログ放送からデジタル放送へ全面的に切り換えられる計画になっている。エレクトロニクスの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)の予測では、この時点でも約3,500万台のアナログテレビ受像機が存在しており、何らかの手段なしには、これらのアナログテレビ受像機では地上デジタル放送が視聴できなくなる。すなわち、地上波のテレビ放送を見られなくなってしまう。

そこで総務省とDpaは、アナログテレビ受像機で地上デジタル放送の視聴を可能にする安価なチューナー(名称:「簡易なチューナー」)の仕様を策定し、ガイドラインを2007年12月に公表した。なお総務省の諮問による情報通信審議会が2007年8月に公表した答申では、価格が5,000円以下の"簡易なチューナー"が入手できる環境が2年以内に整備されることが望ましいとしている。

アナログ放送からデジタル放送への切り換え。「簡易なチューナー」を利用することで、現在のアナログテレビ受像機でも地上デジタル放送を受信できるようになる

このような状況を受けて開発されたシステムLSI"EMMA2TS"は、不要な回路の大幅な省略と1チップ化によってコストを削減した。"EMMA2TS"を使ったチューナのコストは、従来部品の組み合わせによるチューナの半分近くにまで下がると期待される。

具体的には、ISDB-TのフルセグメントOFDMデコーダ回路とMPEG-2オーディオビデオデコーダ回路を1チップにまとめた。従来はOFDM回路とMPEG-2回路はそれぞれ別のLSIチップで実現していた。またデータ放送関連の回路を省略し、動作クロックの周波数を適度に抑えることで消費電力を下げた。動作時の消費電力は標準1.25W、最大2.36Wである。

「簡易なチューナー」の仕様ガイドライン

「簡易なチューナー」システムの構成例。上が従来部品で構成したもの。下が今回のシステムLSI「EMMA2TS」で構成したもの。部品点数が30~40%下がるとともに、放熱用ヒートシンクが不要になった

「簡易なチューナー」の実装基板例。上が従来部品で構成したもの。下が今回のシステムLSI「EMMA2TS」で構成したもの。実装基板の面積はおよそ30%減となっている

システムLSIである"EMMA2TS"はOFDMデコーダ回路とMPEGデコーダ回路のほか、メインCPU(MIPS32 4KEcコア、最大動作周波数200MHz、最大演算性能300DMIPS)、DDR2メモリインタフェース(16ビット幅、最大転送容量1.3Gバイト/秒)、フラッシュメモリインタフェース、MPEGトランスポートストリーム処理回路(最大処理速度80Mビット/秒)、オーディオコントローラ回路、アナログビデオ出力回路(3チャネルD/コンバータ内蔵)などで構成される。電源電圧はコア部(およびPLL部)が1.0V、メモリインタフェース部が1.8V、入出力部(およびアナログ部)が3.3Vである。サンプル価格は2,000円。2009年第1四半期には量産を始める計画である。

システムLSI「EMMA2TS」の内部ブロックと「簡易なチューナー」の構成に必要な外付け部品。青色のブロックはNECエレクトロニクスが提供できる製品。赤色のブロックはNECエレクトロニクス以外のベンダが提供している製品