蜷川監督による映画化を熱望していた

吉高由里子主演・蜷川幸雄監督で映画化された『蛇にピアス』。この原作小説で第130回芥川賞を受賞し華々しい文壇デビューを成し遂げた金原ひとみ。彼女は自身の小説の映画化を、どのように捉えているのだろうか? 原作者から観た映画『蛇にピアス』の世界を金原ひとみが語る。

金原ひとみ
1983年生まれ。東京都出身。2003年、『蛇にピアス』(集英社刊)で第27回すばる文学賞受賞。2004年、同作で第130回芥川賞を受賞。他の著書に『アッシュベイビー』(2004年)、『AMEBIC』(2005年)、『オートフィクション』(20006年)、『ハイドラ』(2007年 新潮社)、『星に落ちる』(2007年)※『ハイドラ』以外全て集英社刊。2008年、蜷川幸雄監督により『蛇にピアス』が映画化

――金原さんのデビュー作である『蛇にピアス』が映画化されました。最初に映画化の話がきたとき、率直にどんな感想を持たれましたか?

金原ひとみ(以下、金原)「嬉しかったです。『映像化出来るのかな?』っていう気持ちもありましたけど」

――蜷川監督は以前から金原さんの『蛇にピアス』のファンで、映画化を熱望していて、金原さんも蜷川監督による映画化を望んでいたと聞いたのですが……。

金原「最初に蜷川監督にお会いさせていただいたときに、映像を浮かべながら読んでくださったという話を聞いたので、"蜷川監督の思い浮かべた映像を是非観てみたいです"なんていう話をしていたんです。実際にその後、映画化の話が来たのですが、『蛇にピアス』は小説として凄くクラシカルなものだと思っているので、そういう、とてもクラシカルな芝居をやっている蜷川監督だったらピッタリじゃないかと思いました」

――金原さんは『蛇にピアス』について「クラシカルなもの」と認識されています。でも、世間とはその認識にズレがあるよう感じます。『蛇にピアス』はインモラルで衝撃的な作品と捉えたれていますよね。金原さん自身は、映画化された作品をご覧になって、どういう印象を持たれましたか?

金原「そうですね、でも蜷川監督も"『蛇にピアス』はギリシャ悲劇だ"と仰っていました。現代風俗を取り入れながらも、関係性や人間自体は、奇を衒わず真正面からクラシカルに撮ってくれているなと思いました。凄く蜷川監督らしい映画になっていると思いました」

――蜷川監督はとにかく原作を大切にして映画化しているという印象があります。例えばセリフやルイのモノローグ部分も、ほとんど原作と同じです。金原さんは原作者として、どう思われましたか?

金原「やっぱり嬉しかったです。最初はどうなるかなと思っていた部分もあったんですけど、蜷川監督が『原作ありきだから、原作通りに忠実にやれ』という風に脚本家の方にも言っているという話を聞いて、かっこいいと思いましたね」

映画『蛇にピアス』

渋谷で遊ぶ19歳のルイ(吉高由里子)は、ふたつに分かれた舌(スプリットタン)を持つ青年アマ(高良健吾)と出逢う。アマの紹介で、サディストの彫師・シバ(ARATA)と出逢ったルイは、アマとシバを同時に愛しながら、過激なピアスやタトゥーに深くのめり込んでいくのだった
(C)2008「蛇にピアス」フィルムパートナーズ