アネット・メサジェは、1960年代より創作活動を開始し、国際写真コンクールで1等賞を受賞し、この副賞で世界各地を旅行している。この時、日本にも立ち寄っており、禅をはじめとした異文化と接する。そして、その後の1968年に五月革命があり、これらの体験が創作の姿勢に大いに影響を受けたそうだ。70年代以降は数多くの個展やグループ展に参加しつつも、女性アーティストとしてやっていく上でも苦労を経験してきた。

当時よりメサジェが創り出すオブジェやインスタレーションには、毛糸や布といったさまざまな身近な素材を使った編み物や刺繍が用いられているが、これを女の手仕事と見られる事があったという。これは単に制作費にお金をかけられなかったと言う事もあるが、メサジェは「女性のアーティストは、一時的にアートの歴史を進化させたと思う」と語っている。

『残りもの(家族II)』2000/ヴァル・ド・マルヌ現代美術館蔵 ぬいぐるみの中身を取り出したものを裏返しにしたものなど、さまざまなオブジェが半円形に吊り下げられている。ぬいぐるみたちは家族を象徴しており、中心には百獣の王ライオンがいる

『観察中』1998 スーパーの袋になにやら詰め込まれ吊り下げられたカラフルな作品。エコなのか? それとも捨てられないだけか?

『ドレスの物語』1990 古いドレスが棺のようなケースに収められ、白いドレスには「PROMESSE(約束)」子どものオレンジのドレスには「INNOCENCE()」といった言葉や、写真などのオブジェがそえられている。そこにはすでにこの世にいないドレスの持ち主の歴史に想いを馳せているようだ

『小さな肖像たちの物語』1990 こちらは子どもたちの服が納められている。母親が大きくなってしまった子どものアルバムを大切にしているような作品だ

『頭-手袋』1999 色鉛筆を差し込んだ無数の手袋を組み合わせて頭の形をかたどっている。しかし、頭というよりは髑髏を想起させる

展示の最後の部屋には、雨でも振っているかのように天井から無数の赤系の毛糸が吊り下げられ、一瞬、血の雨でも降っているかのようだ。この毛糸の雨はハートの形になるように吊り下げられており、赤い毛糸でまさにハートを表現していると言えるだろう。そして、そのハートの中にはたくさんの詰め物がされた言葉のオブジェが垂れ下がっている。

残念ながら本展ではこの毛糸の雨の中に立ち入る事はできないが、以前、展示された際にはこの毛糸の雨の中に入る事ができたという。中に入ると、どうしても垂れ下がっている言葉のオブジェに当たってしまうのだが、そこにはどんな言葉が立ちはだかっているのだろうか? メッセージという名を持つアーティストの究極の"言葉遊び"にぜひ一度、迷い込んでみたいものだ。

『たよったり自立したり』1995-1996 ハートの上部の凹んだところに立つと、幾分、毛糸の雨の中に入り込んだような気分になれる