大阪大学と電力中央研究所は19日、共同でイオン液体を用いた有機単結晶電界効果トランジスタ(FET)の作製に成功したことを発表した。

従来の有機FETでは、有機単結晶に接合するゲート絶縁膜にSiO2が用いられており、その厚みは数百nm程度あった。このため、ゲート絶縁体に外部から電圧を印加しても、ゲート電極表面の電荷と有機単結晶との間にゲート絶縁膜自体の厚み分の距離があり、かかる電界が低くなる原因となっていた。

イオン液体は、陽イオンならびに陰イオンからなる有機液体で、これを有機単結晶とゲート電極の間に挟みこみ、電圧を加えるとイオンの移動が起こり、イオン液体と結晶、ゲート電極の間の界面に陽陰イオンが蓄積された両電荷層(電気二重層)ができる。

イオン液体の化学式(実験で用いられたイオン液体は1-ethy1-3methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfony1)imide)

ゲート電極に印加した電圧は、最終的に電気二重層にかかることとなるが、この場合では電気二重層の距離が1nm程度と近接しているため、微弱な電圧を印加するだけでも、電界は大きなものとなる。

また、液体という点で、有機単結晶との間に良好な界面を簡単に得ることができるというメリットがある。

ゲート絶縁体の厚さ効果および電気二重層のイメージ図(イオン液体に電圧を印加するとイオンの移動が起き「電気二重層」ができるが、このイオンは電極から約1nmの距離に集中するため、高電界印加が可能になる)

両者は、有機単結晶にルブレンを使用し、イオン液体をゲート絶縁膜として用いた有機単結晶FETを試作、その基本性能を評価した。

試作された有機FET

その結果として、従来の有機FETと比べ100~500分の1程度の電圧となる0.2Vでトランジスタとして動作することが判明した。また、電荷移動度は、10cm2/Vsとなり、アモルファスシリコンの電荷移動度(1.0cm2/Vs程度)を超しており、有機フレキシブルディスプレーで求められる電荷移動度に足りることが確認された。

さらに、電界容量の周波数依存性は、0.1Hzから1MHzの範囲で高い電解容量を持つことが明らかになった。これにより、イオン液体は高周波においても電気二重層を形成し、有機半導体に多くのキャリア注入が可能になることを示唆しており、イオン液体を用いた有機FETは高速なスイッチング性能を持っていることが示された。

両者では、同技術を用いることで、省エネルギーで動作する高性能有機トランジスタを実現することが可能になるとしており、今後はより低電圧で駆動し、電荷移動度も100cm2/Vs程度(パソコンのCPUにも使用可能な程度)を実現した有機トランジスタの開発を目指すとしている。