成功例はごく一部

短期間に利益が上がらないとすれば、企業経営を維持するには当然外部からの資金投入が要る。2004年以降、国内アニメ業界では一連の投資ブームが巻き起こった。しかし、未熟なビジネスモデルが投資家の情熱にたちまち水を差した。投資はしたものの、一向に利益が出てこないという現実を前に、ベンチャー投資家もやがて投資をためらうようになった。

言うまでもなく、ベンチャー投資家は、慈善家ではない。魅力的な投資リターンがあってこそ、資金も集まるというものだ。過去2年間にわたる中国アニメ産業に対する過熱的な投資を経て、多くの投資家は投入した資金に応じた報酬は得られないという現実、それどころかコストの回収すら難しいという現実に気が付いたようだ。

虹猫、藍兎などの七剣の伝承者たちが、力を合わせて黒心虎率いる魔教を倒すというストーリーの「虹猫藍兎」は、中国最大の動画アニメ企業、湖南宏夢※通伝播が作ったヒット作品だ。昨年の全国のアニメの総制作量計10万 1,900分の中で、宏夢※通一社で3万分を占め、名実ともに国産アニメの雄、となった。

※は「上」の下部に「ト」(以下同じ)

こうした実績もあり、米国や中国でベンチャー投資を行うSequoia Capitalは、2006年と2007年に宏夢※通に2度資本を投下し、投資実績は2億元(約30億円)に上っている。こうした投資家の強力なバックアップにより、宏夢※通は国内2番手の湖南三辰※通集団と株式持ち合いの方式で提携を実現した。「中国のディズニー」を狙う宏夢※通は、来年までに米新興市場のナスダック上場を目指している。

だが、宏夢※通のようなアニメ企業は、実は中国国内でもようやく指折り数えられるほど珍しい成功例なのである。

税の優遇政策やアニメ産業パークを悪用

中国のアニメ産業振興策は、当初より「国家がニーズを創出し、市場を建設していく」という構想で展開されてきた。しかし、この政策は「両刃の刀」であった。

2006年4月、中国の内閣にあたる国務院の弁公庁が財政部(日本の財務省に相当)など10部、委員会と共同で、「中国アニメ産業の発展を推進する若干の意見についての通知」を発表した。この通知により、アニメ産業の発展を扶助する専用プロジェクトのための基金も設立ブームを迎えた。

各地方政府が同基金を設立し、多くの地方政府がアニメ企業に対し各種の財政補助を実施することになった。それだけでなく、現在では、国産アニメの製作と配給に従事する企業が得る、製作、配給、輸出、特許権使用料などの売上に対する営業税の徴収が免除されるケースも多いという。

こうした優遇政策が、国内のアニメ企業の発展に対し、積極的な役割を果たしてきたことは間違いない。特に資金面で困難を抱える企業にとって、補助金は重要な資金の出所の一つであった。しかしこのようなシステムは、番組製作費を水増ししたりするなどの不正を誘発してしまった。

「時間と金額を交換する」以外の、もうひとつ政策の隙に乗じた現象として挙げられるのは、政府の各種の税優遇政策やアニメ産業パークに対する賃貸料減免の優遇政策を悪用し、多くのアニメ企業でない企業が「アニメ」の名をかたって産業パークに進出したことだった。これなどは、まさに「羊頭狗肉」である。

また、一部の企業は、優遇期限が過ぎるとすぐに産業パークから離れ、別の産業パークに移る。中には、各アニメ産業パークの間を何度も移転する企業も珍しくないという。