――そこでデビューされて、生活はいかがでしたか?

「当時、デビューして載り始めたとはいっても、なかなか連載とまではいかないで、3カ月に1本、4カ月に1本載るぐらいだったんですね。さらにギャグマンガって、ページが少ないじゃないですか。とても食べていけないわけですね。ある程度、光は見えてきたけど、まだまだこれじゃイカンと」

――そこでどうされたんですか?

「とり先生のところで仕事してたころに、その職場に送られてきていた『少年キャプテン』という当時、徳間書店が出していたこれまたちょっとマニアックな雑誌があって。ここもギャグマンガ、いろいろおもしろそうなの載ってるから、ここならいいんじゃないかと。そちらに持っていったら、"これなかなかおもしろいじゃないか"みたいなことで。そこからは、まあページ数の調整要因だったのか、"じゃあ今月は6ページ。誰それ先生が落ちたから今月は12ページ描けないか。今月、あんまり余ってないんだけど、3ページぐらい"とか。そういうのが毎月毎月、途切れずにチョロチョロきたわけですね。で、それに合わせて白泉社も、"徳間書店でチョロチョロ載ってるみたいだけど、このままあっちにとられちゃうのもなんかおもしろくねえな"とか思ったのか、連載くれたんですね。で、その2本立てでやっと、なんとか下宿代と食費が払えるようになったかな、という(笑)」

――そして現在に至ると。

「だからその当時、もうホント苦労するだけ苦労したんで、仕事がなくなるのが怖くて怖くてしょうがないんですよ。とにかく小さい仕事でもなんでも、寝る間も惜しんでしまくりましたね。さすがに今は歳とってきちゃって、なかなかそうも言ってられなくなってきたんですけれども」

――キャパからどうしてもあふれちゃうやつは、ごめんなさいと。

「ごめんなさいだけど、もうオレ、マンガ描かせてくれるだけで幸せです、みたいな感じで」

――さすがに今は、注文がこなくて困るということはありませんよね。

「おかげさまで。ホント言うと、この歳になってこんなに睡眠時間削って、もうツラくてしょうがないんですよ(笑)。きちんと自分の満足のいく形で描いたものが大ヒットすれば、こんなにいっぱい仕事とらなくてもいいのにな、とか思うんですけど(笑)。なかなかそうはいかなくて。そこそこ喰えるだけのお金は入ってくるんですけど、これは儲かってるわけじゃなくて、仕事した分のお金が入ってくるわけですから当たり前なんですよ(笑)。目指すべきは、やっぱりちょっとだけ仕事して、その分の何倍もいっぱいお金が入ってくると、もっといいなと思うんですけど。なかなかそうもいかないですね」

――その望みは、将来かないそうですか?

「いやー、いろいろ言っちゃいましたけど、やっぱり贅沢ですな。いまだに好き勝手描いてますから、そんな高望みしない。まあでも、みなさんマンガ買ってよ(笑)。そういう感じですね」

――近刊ですと、7月22日発売の『カスミ伝S(コミックビーム文庫版)』(エンターブレイン)や8月9日発売予定の『週刊アスキー増刊 電脳なをさん傑作選 スティーブ・ジョブス編』(アスキー・メディアワークス)ですね。ところで、ケチョンケチョンにけなした、あのデザイン会社の人がいなかったら、今の唐沢なをき先生は、いなかったのかもしれませんね。

『カスミ伝S(コミックビーム文庫版)』。エンターブレインより発売中

『週刊アスキー増刊 電脳なをさん傑作選 スティーブ・ジョブス編』。アスキー・メディアワークスより8月9日発売予定

「ああ、それは確かにそうですね。デザイン会社にうまいこと就職できたら、恥ずかしい思いしてマンガの投稿なんかしなかったでしょうね。ましてやあんなツライ思いして、2年も3年も持ち込みなんか、できなかったでしょうね」

――もしかしたら、普通のデザイナーになっていて、年に2回コミケに行くのが楽しみです、みたいな人生を送っていたのかもしれませんものね。

「かもしれないですね」

――楽しいお話をどうもありがとうございました。マンガの売り上げが増えるよう祈ります。

この記事の掲載前に、奇しくも赤塚不二夫先生の訃報に接しました。心より、ご冥福をお祈りいたします。