一眼レフやコンパクトカメラの普及だけでなく、携帯電話にもカメラ機能が搭載され、カメラは1人1台の時代になりました。また、携帯電話からでもでもブログやSNSなどに書込ができるようになり、簡単に写真をインターネット上に掲載できます。そんな時代だからこそ、写真で人を傷つけてしまう恐れも多くなり、それが原因でトラブルに発展することも少なくありません。写真撮影やブログについての守るべきマナーや、正しい知識を知ることはトラブルを防ぐことに繋がります。そこで、写真撮影や写真を発表するうえで注意したいことを、武蔵野美術大学で表現活動に関わる問題を扱っている志田陽子教授に解説していただきました。

表現の自由と報道の自由

肖像権の話に入る前に、まず「表現の自由」について解説しておきます。「表現の自由」は憲法21条で保障されている、大切な「人権」です。この権利が大切される理由は、まず、表現(コミュニケーション)が、人間一人ひとりの人格の発展や存在証明のために、不可欠のものだからです。さらに、民主的な社会には選挙権のような制度があるだけでなく、情報の流通や意見交換が自由にできることが前提として必要です。社会の中にどんな問題があり、どんな考え方があるのか、自分にどんな社会参加のチャンスがあるのか、ということを私たち一人ひとりが必要に応じて知ることができ、発信(表現)することができる、ということが大切なのです。とくに「批判の自由」があるということは、公権力や民衆社会の暴走を防ぎ、社会の自浄能力を維持するために大切なことです。

写真表現も、前述のような意味での「表現の自由」の保護を受けます。まずは、"国や公共団体などの「公権力」が、自発的な表現活動を妨害してはならない"というのが、「表現の自由」の基本です。したがって写真家が自発的に写真展を開いたり、作品を媒体に掲載したりするときに、公権力が「内容が政府の意向に沿わない」といった理由でこれを禁止することはできません。これは憲法21条が「検閲」と呼んで絶対に禁止しているタイプの権利侵害となります。

写真の場合には、とくに報道写真がそうですが、事実を写しただけでその「事実」が社会問題や政治問題の告発といった、強力な影響力や批判力を持つ場合があります。また、スナップ写真であっても、状況によってはそのような社会的価値やインパクトを持つ場合がありえます。そのためこれらの表現活動がそのインパクトのゆえに妨害を受けることが、歴史上起きてきました。だからこそ、「表現の自由」という権利が防波堤として必要なのです。