ガートナージャパンは5月28-29日の2日間にわたり、BIをテーマにしたカンファレンス「ガートナー ビジネス・インテリジェンス&情報活用 サミット」を東京カンファレンスセンター品川で開催した。2日目にあたる29日には「次世代BIの幕開け」と題した特別パネルディスカッションを実施、SAS、オラクル、マイクロソフトら主要BIベンダー3社の代表者らを招き、BI活用の現状や課題、そしてBIの将来像についてそれぞれの意見を交換し合った。

2007年のBIベンダー買収・合併による業界再編はなぜ起きた?

パネルディスカッションのホストを務めたガートナー ジャパンの堀内氏

同カンファレンスのパネルセッションでは、BI業界トレンドについての基調講演を行ったガートナー リサーチ バイスプレジデントの堀内秀明氏がホストを務めた。同氏がパネルの最初のテーマに選んだのは「なぜBIベンダーの買収統合がこんなに一挙に進んだのか」という疑問で、既存ユーザーの代弁として、いま使っている製品を今後もそのまま使い続けられるのかという問題をベンダーに投げかけるものだった。

最初にコメントしたのは、一連のBI買収劇の渦中の1社である日本オラクルの常務執行役員 製品戦略統括本部長の三澤智光氏だ。米Oracleは2007年2月、BIベンダーの米Hyperion買収を発表し、その後の独SAPによる仏Business Object(BO)買収米IBMによる加Cognos買収と一連の買収劇の口火を切る存在となっている。三澤氏は「私は直接の担当ではないので全部を話せるわけではないが」と前置きをしつつ、その狙いが「既存のHyperionユーザーの取り込みにあったのではないか?」と分析する。同氏によれば、以前よりSAPユーザーでさえも予算編成の管理などでHyperionを活用しているケースが多く、こうした企業の取り込みがOracleにとって新たな力になると判断したのではないかという。OracleはBI、特にHyperionが強みとしていた分野はそれほど得意ではなかったなかったといえるが、「今後はHyperionを部門ごとの予算・販売計画のツールに活用して、生産計画や人事計画の乖離を最小限にとどめるためのソリューションを提供できないかと考えている。このように、思った以上にアプリケーション製品の強化が行えたのではないかと思う」とコメントしている。

また業界再編では中心メンバーとして直接取引に関わっていないSASやマイクロソフトには、こうした一連の動きはどう映ったのだろうか? SAS Institute Japan 執行役員でビジネス開発本部長兼プロフェッショナルサービス本部長の宮田靖氏は、「唯一残された専業ベンダーの1社として、むしろ以前より引き合いが増えており、会社的にはいい影響を与えている」と述べる。BI業界の大手といえば、まず前述のBO、Cognos、Hyperionといった名前が挙がってくるが、それに準ずる形でSASやさまざまなBIベンダーが現在も市場に存在している(参考記事)。SASはもともとはBIではなく、統計解析アプリケーションを主力にしていたベンダーだが、汎用システムの高性能化や市場でのニーズの高まりを受け、従来の統計解析学的手法やノウハウを応用したBI製品のリリースを進めている。「やはり専門家に任せるのが安心なのではないか」というユーザー心理が同社にプラスに働いているというのが宮田氏の意見だ。

一方でこれらベンダーとは違う視点でBI導入を進めているのがMicrosoftだ。バックエンドのシステムを得意とする他社に対し、MicrosoftはOffice製品に代表されるフロントエンドのアプリケーションに強みを持っており、しかもその分野では圧倒的シェアを誇っており、もはやデファクトスタンダードと呼べる存在になっている。同社にとってBI市場参入への最初の布石といえるのはSQL Server 2005に標準搭載されたBI機能で、ここで処理されたデータをExcelなどのフロントエンドで簡単に閲覧・加工できることを売り物にしている。マイクロソフト インフォメーションワーカー本部 IWソリューションマーケティンググループ エグゼクティブプロダクトマネージャの米野宏明氏は「こうした従業員の生産性を向上させるソリューションを提供するのがマイクロソフトのDNA」だと説明する。また同社は過去数年間にわたって何社かの小規模BIベンダー買収を繰り返しているが、基本的には買収戦略もBIソリューションもこのDNAから大きく乖離した行動ではないと述べている。また業界再編については「業界が新しくなっていくなかでの当然の流れ」だとも指摘する。

堀内氏は3社代表の自己紹介を兼ねたトレンド解説や取り組みをまとめる形で、この背景を「ユーザーのニーズに応じて買収や自社製品強化のいずれかを選択した結果」と分析、手段は違えど、ユーザーのニーズを満たす形で業界再編が進んだと意見を述べている。

日米の温度差、帳票文化の日本マインドにどう立ち向かうか

米Gartnerの調査報告で、過去3年間の米国企業のCIOへのIT投資への意識調査を行った際、3年連続でトップに輝いたのはBIだったという。一方で日本では2007年には9位、2008年にようやく3位とやっと認識が高まりつつある状況だ。今回のパネル参加者はすべて米国資本の日本法人からの代表者たち。当然日本でのビジネス展開にあたって、こうした両国間の意識の乖離が本社との意思疎通に影響を与えることになるだろう。こうした問題について、ベンダー各社はどう考えているのだろうか?

これについてオラクルの三澤氏は両国の文化の違いを挙げる。「現在世界中に稼働中のメインフレームが1万台以上、その多くが日本にある。日本には引き続き帳票文化が残っており、データはあくまで帳票という形でストアしている。業務分析もこの帳票をベースに行うことになる。あるユーザー事例を挙げれば、そのユーザーはERPを導入しているにも関わらず、出力データは従来と変わらずに帳票のままというケースがあった。それもわざわざユーザー企業の要望でそういう形での出力にした結果だ」と同氏は述べ、BIを活用するバックグラウンドが日本で浸透していない点が1つの課題だという。

またもう1つの問題として、経営サイドの問題も指摘する。オラクルでは「Operation ExcellenceからManagement Excellenceへ(現場からトップダウンへ)」という考えで、これまで現場レベルで個々に解決していた問題をトップ側に吸い上げ、全体的な視点からBIを活用するトップダウン的なアプローチが重要になると考えている。だがこうしたManagement Excellenceを実践する場合、セグメント別の収益状況を分析するのが重要となる。米国でCFOを志望するような人物はこうしたスキルを持っており、アプリケーションベンダーにも当然こうした機能を要望してくる。一方で日本にはこうしたスキルを持つ人物がどれだけいるのか。「欧米でERPとCPMツール導入が盛んなのはそうした要望があるから。今後会計コンバージェンシー(統合)の導入で、日本も欧米型に近付いていくのではないか」と三澤氏は分析、環境の変化とともに日本でもBI導入の機運が高まることに期待を寄せる。

SASの宮田氏もこの意見に同意する。「日本ではライフタイム・エンプロイメント(終身雇用)を重視しており、その道のプロッショナルが会社に引き続き在籍しており、分析や決断の一端を担っている。また一方で小売業では売上予測が重要なテーマであり、中小企業であってもグローバル化や競争激化にさらされており、BI的な要求も高まりつつある。今後そうした従来型のプロフェッショナルから世代交代が進むなかで、経験値の共有が必要になっていくのではないか」と同氏が言うように、経験やノウハウの集積や共有、あるいはより戦略的なものとしてBIに対する需要が高まるのではないだろうか。