5月21日から23日の3日間、パシフィコ横浜・展示ホールにて「人とくるまのテクノロジー展 2008」が開催されている。展示ホール館外ピロティでは、現代のクルマに搭載されている安全のための最新技術と、その技術の適正な操作方法、危険回避方法を紹介する「2008年 最新くるまの運転教室」が昨年に引き続き実施されている。

安全技術を正しく使うために知っておくこと

「最新 くるまの運転教室」は、新しい技術を導入した車の運転操作と危険回避の仕方を、実車や体験型シミュレータを使用して体験するというもの。実車を使用した体験ドライビングは1回あたり約1時間程度。1日4回×3日間で計12回を予定しているが、すぐ予約は埋まってしまうらしく、今年も時間の都合上見学することにした。

プログラムは以下のとおり。

  1. ドライビングポジションやステアリング操作の基本、シートベルト装着の確認
  2. 縦列駐車の基本とサポート機能の確認
  3. 左右の滑りやすさの違う路面での急制動と障害物回避でABS性能を体験
  4. 滑りやすい路面での急発進、スピンでESC(横滑り防止装置)の性能を確認

ドライビングポジションやステアリング操作、シートベルトを正しい位置で使用することは基本中の基本。しかし意外に間違ったクセが付いている人が多いらしい。ドライビングポジションは、ハンドルの上を持っても肘が軽く曲がる状態、背もたれの傾きは15°程度が基本だ。多くのドライバーは、シートを後ろに下げすぎている場合が多いという。するとステアリング操作に支障をきたしたり、膝が伸びて急ブレーキ時に最後まで踏み込目めないなど、大変危険だ。

講師の方(左)が、クルマの最新技術の運転を解説。右の女性は司会者

ハンドル上部に手をかけた状態で、肘が伸びるときはシートが離れすぎている証拠だという

衝突時の飛び出しと、回転方向の車外放出を防ぐシートベルトはまさに命綱

シートベルト装着後、ショルダーベルトの弛みをなくすために引っ張って確認

私は駐車が大の苦手。クルマとクルマの間に入れる縦列駐車は、人様のクルマを傷つけないだろうか? といつもビクビクしなが入れている。縦列駐車のパーキングエリアに入れるのがイヤで、遠いけれどもスペースの広い駐車場に入れてしまうこともけっこうある。縦列駐車の実演は興味深く見学した。

縦列駐車の基本は、まず駐車しようとするスペースを見つけたら、ハザードを点けて後方車に合図。ハンドルはクルマを動かしながら切るのではなく、止まっているときにハンドルを切ってクルマを動かす(据え切り)。ハンドルを切ってから車体を動かしたほうが、方向感覚がわかりやすいとのこと。いつもクルマを動かしながらハンドルを切っては、切り返しの繰り返しだったので今度運転するときは止まった状態でハンドルを切ってみようと思った。

次に車庫入れサポートシステムを参加者が体験。これはトヨタの「IPA(インテリジェント・パーキング・アシスト)」、ホンダの「スマートパーキング・アシスト」、日産の「AVM(アラウンドビューモニター)」など、メーカーによってサポートの方法が異なっている。今回はトヨタのマークXジオのIPAでデモンストレーションが行なわれた。IPAは、縦列駐車ボタンを押して、バックモニターで駐車したい場所を選んでバックするだけでいいという。見学者にもわかりやすいように、参加者は両手を挙げてゆっくりとバックしていく。ハンドルが自動で切れて駐車スペースに車体が納まったときは、多くの人が「おぉ~」と感心していた。バックするスピードが速すぎる場合は、クルマから警告されるらしい。この機能はCMでも何度か見たことがあったが、実際に見てみると目から鱗だ。世の中は進んでいる。

最近のクルマでは当たり前になりつつあるABS(アンチロック・ブレーキ・システム)とESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール=横滑り防止装置)の効果を試す実験走行は、ビニールのような床に水を撒いて滑りやすくし、30km/h程度で急制動と障害物回避を行なう。ABSは急ブレーキや低摩擦路面で強くブレーキを踏んでもタイヤがロックしないシステム。これはブレーキを踏みきることで正しく作動するので、正しいドライビングポジションが大切になる。人間は急ブレーキを踏んで怖いと思うと、なにもしないで衝撃の準備に備えようとするらしい。しかしABSはハンドルが操作できるので、回避するための操作ができる。講師の人が「最後まで諦めないで危険を回避するよう常に意識して下さい。安全な技術も操作しなければ意味がありません」という言葉が印象的だった。

横滑り防止装置である「ESC」は、メーカーで名称が異なっている。自動車技術会は、統一呼称としてアメリカで使用されている「ESC」を提唱しているという。ESCは車両が低摩擦路面のカーブなどで横滑りを関知すると、4つのタイヤを制御して自動的に車両の方向を保つように制御するシステムのこと。デモ走行を見ると、ESC非作動では車両の動きがかなり変わり、面白いようにスピンしていく。動作させるとごく普通に走っていく。こちらのほうが当たり前のクルマに見えた。

ちなみにこのデモンストレーションはたいへん危険なので、インストラクターの実演のみなのだが、ESCシミュレータで疑似体験ができた。ヘルメットのようなものを装着するのだが、遊園地の遊具のようでちょっと楽しい。横滑りすると実際に傾くだけでなく、風も吹きつける。しかし、自分が実際にクルマを運転していてスピンが起きたとしたら、相当に怖いと思う。危険な状態にならないことが一番なのだと思った。

トヨタのパーキングサポートシステムIPAの実演。体験者がハンドルから手を離して、ハンドルが自動で動きエリア内へ縦列駐車する様子はちょっと感動する

横滑り防止装置ESCを搭載していないと、滑りやすい路面では簡単にスピンしてしまう

横滑り防止装置ESCを搭載すると、滑りやすい路面でもまっすぐに走行することができる

ESC(横滑り防止装置)シミュレーター

見学よりわかりやすいシミュレータ

シミュレータは予約しなくても体験できる。私も待つ人の列に並んだが、すぐに体験することができた。待ち時間は長くても30分程度らしい。シミュレータの内容は、上記のESCのほかに、シートベルトの効果を実感できるロールオーバーシミュレータと、アクセル、ステアリング、ブレーキなどを制御し、トータルでのドライビングが体験できるVDIM(ビーグル・ダイナミック・インテグレイティッド・マネージメント)シミュレータが用意されている。

シートベルトの安全性を体験するロールオーバーシミュレータは、通常の車両を180°回転させるというもの。シートベルトは、急停止の飛び出し防止と思っていたのだが、それ以外に車体が傾いたときにも装着者を固定する役割があるという。全てのシートベルトは車体が20°傾くとロックされるようにできているらしい。

シミュレータでインストラクターからシートベルトの正しい固定方法を学ぶ。たんに金具をはめるだけでなく、その後ショルダーベルトを引っ張って弛みをなくし、肩の真ん中にベルトが来るようにする。ベルトにねじれなどがある場合は、固定はされるがねじれた部分に力が集中してしまい、怪我の原因になる場合もあるという。いよいよシミュレータが横に回転していく。外のスタッフから「いま20°です」「45°ですよ」と声がかかる。遊園地なら丈夫なセーフティーバーで体を固定するが、普通のシートベルトで180°も回転して大丈夫なのだろうか? とちょっと不安だった。しかしシートベルト一本だけできちんと体は固定されていた。来月(2008年6月)から後部座席のシートベルト着用が義務化がされるが、自分と同乗者を守るためには必要なこと。ロールオーバーシミュレータで、改めてシートベルトの安全性と大切さが実感できた。

VDIMシミュレータでは、オフロードコースを疑似体感した。ABSや横滑り防止装置、ブレーキアシスト、タイヤの空回り防止装置などをオフにした状態では、クルマがスリップしやすく、壁に衝突したり、画面が大幅に揺れたりしてまっすぐに走ることができなかった。衝突するとストップして、改めてスタートし直すことになる。各種制御をオンにすると、走りづらいことは変わらないが、車体をコントロールすることは可能だった。制御効果の有無は歴然としている。疑似体験とはいえ、実感することはインストラクターの模擬走行を見学するより、わかりやすいものだ。もしチャンスがあれば、ぜひ試してみてほしい。

ロールオーバーシミュレータ。車体の傾きに合わせて、角度計の針も連動する

ロールオーバーシミュレータに乗り込み内部から撮影

VDIMシミュレーター