200万部の大ベストセラー『買ってはいけない』(週刊金曜日編)の著者の1人である船瀬俊介氏は、ユーモアあふれる巧みな話術で会場を爆笑の渦に巻き込んだが、講演の内容はきわめて深刻なものだった。船瀬氏は、昨今連続する凶悪な殺人事件を例にあげ、「環境ドラッグ」によって、現代人の体と心が破壊されていると訴えた。同氏の言う「環境ドラッグ」とは、人間をとりまく衣食住のさまざまな環境の中に含まれている、人間の体や精神を破壊する物質を指すとしている。

第一に船瀬氏が挙げたのが化学物質の蔓延だ。1995年に採択されたシシリー宣言でも、有害化学物質が脳の発達を阻害し、精神行動を撹乱すると断言されていると、船瀬氏は力説する。だから、「家は鼻で選べ」というのが氏の持論だ。有害な化学物質が使われていないか、よくチェックしろということである。氾濫する情報に惑わされることなく、自分の五感を大切にとも船瀬氏は言う。

口八丁手八丁のユーモアあふれる話術で、会場を爆笑の渦に巻き込んだ船瀬俊介氏

さらに、コンクリートも「環境ドラッグ」だと船瀬氏は語る。島根大学の中尾哲也教授がまとめた論文によれば、コンクリートの集合住宅と木造住宅に暮らす人の平均死亡年齢を比較すると、コンクリートの住宅に暮らしている人は約9年早死にしているという。さらに衝撃的なこととして、静岡大学と東京大学の農学部が合同で行なったマウス実験が発表された。実験結果では、コンクリートと木の巣箱にマウスの赤ちゃんを入れて育てたところ、木の巣箱で死んだマウスは15匹だったが、コンクリートの巣箱ではなんと93匹が死んだというのだ。しかもコンクリートで生き残ったマウスは、きわめて凶暴に育ったとしている。

食べ物が原因で病気になることは知られているが、建物で病気になるというと「エーッ! 」という顔をする人が多いと、船瀬氏はあきれる。だが、建物の影響はきわめて大きく、いまようやく建築学と医学が手を結んだ。講演の終わりでは、これからは「衣食住」ではなく「医食住」で体と心を健康に保とうと述べ、大きな拍手を浴びた。

9つの講演の最後に、日本建築医学協会の松永修岳理事長が登壇した。同氏は伝承医学にさまざまな科学の最新データを融合させた新たな代替医療として「建築医学」を提唱。住空間は、心身の健康のみならず、経済的な健康にも影響があると語り、建築医学を活用して、一人一人健康で、豊かで幸せに生きてゆける平和な社会を築くことができればと、今回の講演会を締めくくった。


10時から始まった講演会は、昼休憩をはさみ18時過ぎまで続いた。長丁場でありながら参加者は、最後まで熱心にメモを取りながら講演に聞き入っていた。東京都内で建築事務所を開いているという参加者の一人は、「建築家として、建築と健康との関係に興味があり参加したが、たいへん有意義な話ばかりだった。今後の仕事に活かしていきたい」と感想を語った。次回は11月に「日本建築医学協会2008年秋の大会」が開催される予定だ。