2008年4月16日から18日にかけて横浜の情報文化会館で開催されたCOOL Chips XIにおいてルネサス テクノロジの伊藤会長が、"Co-design of Hard Software and Soft Hardware to realize the Convergence and Divergence of Modern Applications"と題して基調講演を行った。

COOL Chips XIで基調講演を行うルネサス テクノロジの伊藤会長

伊藤氏は、コンピュータの初期であるメインフレームの時代からPCの時代までは、経済的な価格で実現できる性能に対してアプリケーションの実行に必要な性能の方が上回っており、高い性能を実現すれば売れたテクノロジ主導の時代であったが、2000年ころからこの関係が逆転したと述べた。そして、この2000年以降の時代では、多くの機能の集積化で付加価値をつけて需要を喚起する時代となったと述べた。

性能が需要を上回り、性能の向上では売れず、機能の集積化で需要を喚起する時代になったと言う

問題は、ソフトの規模が増大し、作り直すことが非常に難しくなってきている点で、当然、ソフトをソフトに可変性を保つ努力は重要であるが、仮想化などの技術を使って、変えられないハードなソフトを新しいハードで動かすことが重要と主張した。そして、マルチコア化により電力の増加を抑えて高い性能を実現して、古いソフトの仮想実行を可能にし、更にコア数を増やして性能を向上するという作戦である。

ハードウェアとしては、1024SIMD並列のMX-1マトリクスプロセサについて述べた。このチップでは、1024並列のプロセサが2ビット/サイクルでデータを処理し、1024個の32ビットデータの加算などの演算処理を16サイクルで実行することができ、ハードなレガシーのソフトウェアを高い効率で処理できるという。

ルネサス テクノロジのMX-1アーキテクチャ

そして、同社のEXREALプラットフォームは、仮想化技術を使って各種の環境で作成されたソフトウェア資産を組み合わせて動作させることを可能としている。同社は、このような手法で、過去に開発した資産を新しいチップで容易に再利用できるようにすることに力を注いでいる姿勢が窺がわれた。

過去に開発した資産の再利用を容易にし、各種機能を集積して魅力をつけたとしても、それだけで需要を喚起し続けることができるかどうかは、筆者には疑問である。Swissアーミーナイフは便利であるが、あの程度が良いところで、100種も1000種も機能あっても肥大化してしまうし、使いこなせない。経済的に提供できる性能が需要を上回ってしまった今、どのようにして新たな需要を喚起するのかが業界全体の大問題であるように感じた。