――『エクスマキナ-APPLESEED SAGA-』では、プロデューサーがジョン・ウーだったり、音楽監修を細野晴臣氏がやっていたりと、監督の付き合いの広さが垣間見えたのですが。プラダとかも参画していますし。

「僕の付き合いと言うより、周りのスタッフの人脈と、一作目の『APPLESEED』に共感してもらった皆さんによってプロジェクトが膨らんでいった感じです。それにはうれしい悲鳴を上げましたね。途中からは僕ももう行けるところまで行っちゃえ、と開き直っちゃっいました(笑)。なかには大きくなりすぎてバランスが崩れるのでは? と心配してくださる方もいらっしゃったんですが、そこを調整するのが僕の仕事だろうと思って、逆に楽しくやりました」

――これだけの規模の作品をいまフルCGアニメで制作できるという現状に、これまでアニメ業界に深く携わってきた監督の感慨というものをお聞かせください。

「2004年に一本目がリリースされたんですけれど、多分その5年前だったら僕は"絶対無理"って言ったと思うんです。けれど、半年前だったら無理だったけれど、今ではなんとかなるというような日進月歩でPCの性能やCGソフトが進化してくれて、一本目はそのギリギリのタイミングで制作されたと思います。作るほうにとっても、見るほうにとってもタイミングが非常に良かったのだと思います。結果的には形になったのですが、制作途中はホントに完成するのか? ということが一番不安でした。今でもなにか食い違いがあったら、一本目は成立していなかったんじゃないかと思いますよ。大げさじゃなくて、奇跡みたいな巡り合わせとかもありましたので、感慨というものは本当にありますね」

――制作ツールは『APPLESEED』のころと比べて変わったんですか?

「そんなに大きく変わっていないですよ。ソフトもバージョンアップを繰り返してきて、性能が多少向上したくらいです。一番大きかったのは、PC本体やメモリ、ソフト、HDDの価格が下落しつつも性能は向上したのがちょうど2004年だったのかな、と思います」

――アニメ映画を制作する際、実写と大きく違うのはクランクイン、クランクアップがどこなのかわかりづらいところだと思うのですが。

「『エクスマキナ-APPLESEED SAGA-』の場合は、シナリオができてストーリーボードを作りながらスタッフを集め、キャラクターを作り出したりしました。はじめは15人くらいのチームで作業を開始して、キャラクターのセッティングが大体終わったころにモーションキャプチャーをやって、そこから一気にスタッフを集めて……という感じでしたね。そのころ、僕がある日スタジオに入るといきなり目の前に80人くらいのチームがあって、相当プレッシャーを感じたんですけれど(笑)。あの瞬間が本格的にプロダクションが始まったという意味では、クランクインという感覚に近いのかもしれません。あと、できあがりのタイミングというのは、編集作業は特別に時間をとって行うのですけれど、すごいラフなCGで一度つないで本編を作っちゃうんです。それからCGのクオリティを部分的に上げていって、最後のコンポジットという作業で1カットずつ完成させていきます。それを1カットずつOKを出していくと、残りカット数がだんだんと明確になってカウントダウンが始まるんです。で、全カット終了しましたという瞬間が、いわゆるクランクアップということになるんだと思います」

――その間際のテンションはどのような感じなのでしょうか?

「もうそのときはスタッフとともに私のテンションもかなり上がっていて、ある種のトランス状態に入っている感じです。半分、幽体離脱しているような状態ですね。もうひとりの自分が自分を見ているような(笑)」

――でもそのもうひとりは作業を手伝ってくれないんですね(笑)。

「そうなんですよ。オレ、なんかひとりでブツブツしゃべっているなとか、客観的に見ている自分がいたりするんですよ。で、スタジオ内では男性だろうが女性だろうがその辺にゴロゴロ寝てるという(笑)」

――『APPLESEED』の3年後に完成した『エクスマキナ-APPLESEED SAGA-』のクオリティを見て、その3年後にまた続編が制作されたら、どんな作品になっていると予想されますか?

「自分の希望的観測でお話させていただきますと、ひとつはっきり言えるのは立体視の映像になりますね。3D、いわゆる飛び出す映像です。これは自分でもぜひチャレンジしてみたいですね。それで、また新しい演出ができるんじゃないかとも思っています」

――最後にメッセージをお願いします。

「もともとHDアニメということで、密度とクオリティの高さを追求して作ってきた映画なので、話の密度も含めて中身のギッシリ詰まった作品になっていると思います。データ量的にもDVDに入るギリギリの容量になっているらしいので、映像も話も、何回見てもおもしろいハズです! 1フレーム毎にスタッフの気持ちも込められていますので、ぜひ心行くまで見ていただければうれしいですね」

――ありがとうございました。