デジタルカメラは、「一家に一台」から「一人に一台」の時代へ

総務省統計局の調査によれば、2006年度でデジタルカメラの世帯普及率は58%に達したという。デジタルカメラ利用が想定される多くの家庭にはすでに一台以上のデジタルカメラが存在しており、市場はすでに飽和してきているともいえる。現在デジタルカメラは2極化が進んでおり、国内外で「顔検出機能」や「手ぶれ補正」機能を搭載したコンパクトデジタルカメラが伸びている一方、デジタル一眼レフが低価格化し、全体の所有率が大きく上昇してきている。デジタルカメラが次に目指さなければならないのは、「一人に一台」への取り組みだ。より幅広い層のニーズに合わせ、細分化したコンセプトでターゲットを明確にしていかなければならない。

入社2年目の女性スタッフが企画を担当した、カシオの「EXILIM EX-Z80」

そんな中、カシオが新たに「女性をメインターゲット」にしたデジタルカメラ「EXILIM EX-Z80」を発売した。従来から薄型でスタイリッシュなデザインで女性ユーザーからも好評を得ていたEXILIMシリーズだが、さらにコンセプトを明確に絞った製品だ。本製品の企画を主導したのは、商品企画部の岡崎さんという、入社2年目の女性スタッフ。今回は、「EXILIM EX-Z80」が目指した新たな方向性について、直接岡崎さんに伺ってみた。

「EXILIM EX-Z80」の企画を主導された岡崎 愛さん
「EXILIM EX-Z80」の企画を主導された岡崎 愛さん(開発本部 QV統轄部 商品企画部 第二企画室)

女性でなくては気付かない「フィーリング」を重視した製品企画


───「EXILIM EX-Z80」の開発コンセプトについて教えてください

より個人個人のニーズに合わせた製品づくりの一環として企画された製品の一つで、「EXILIM EX-Z80」は流行に敏感な20~30代の女性に焦点を当てました。本体や操作画面、インターフェースなどに違いを出しています。デザインコンセプトは「Sweet Comfort(スウィートコンフォート)」。女性なら誰もが本質的に持っている「かわいらしさ」の演出と、普段つけているアクセサリーのように気兼ねなく扱える「快適さ」を目指しました。

「Sweet Comfort(スウィートコンフォート)」というデザインコンセプトのもと、多数のスタッフによって本体カラーや画面構成が決められた

───採用された5色のカラーは、どういった観点から選ばれたものですか?

「EXILIM EX-Z80」では、本体カラーをポップなイメージから5色用意しました。ピンクが2色、グリーン、ブルー、シルバーです。ピンクは、最初にデザイナーから提示されたのが「ビビッドピンク」だったんですけれども、私はこちらのもう少し薄い「ピンク」がとても気に入っていました。ピンクと一言で言っても、女性それぞれに好きなピンクとそうでないピンクがあります。どちらにも良さがありますので、ピンクについては最終的に2色展開することにしました。また細かいところですが、本体に刻印されている「MEGA PIXELS」の文字列も、本体の色に合わせてカラーを変えています。

ビビッドピンク グリーン
ブルー シルバー
上段左から「ビビッドピンク」「グリーン」、下段左から「ブルー」「シルバー」。よく見ると「MEGA PIXELS」の文字色もそれぞれ違う
ピンク
岡崎さんのお気に入りである薄い「ピンク」。訴求力が違うといっても、同じ色のバリエーションを2つ用意するという発想は、男性にはなかなか出てこないものだ

───本製品で岡崎さんが変えなくてはならないと思ったのはどの点でしょうか?

企画を担当して真っ先に変更を加えたのが、「ベストショット機能」のサンプル写真です。ベストショット機能は、サンプルシーンをセレクトするだけでそのシチュエーションに合わせた撮影設定を行い、綺麗な写真が簡単に取れるという弊社デジタルカメラの自慢の機能です。しかし、液晶画面に表示されるサンプルシーンの写真が、女性が実際に撮影するシチュエーションとかみ合わないと感じていました。例えば小物を撮るためのマクロモードのひとつで、弊社の別のデジタルカメラでは「コレクションを写します」という説明に、ブリキのおもちゃが表示されます。でも、女性がおもちゃを撮影をする機会は滅多にないですよね。そこで説明を「アクセサリーを写します」に変え、サンプル写真もアクセサリーが写っているものに変更しました。サンプルシーンを身近な題材に変えることで、より機能をわかりやすくすれば、気軽に活用して貰えると思ったんです。また、サンプルシーンの並び順も、女性がよく使用するものを若い番号に変えました。

───なるほど。その他「EXILIM EX-Z80」開発にあたりこだわった点はありますか?

フォーカス枠が画一的で面白みに欠けるので、デザインを変更しました。そのうちのひとつ、ハート型のフォーカス枠では、ピントが外れていたらハートが割れ、ピントがあったら綺麗なハート型になるというアニメーションが表示されます。かわいい、面白いだけでなく、視覚的なわかりやすさも得られると思います。ハート以外にも、クッキーやフラワー、シャインといったフォーカス枠を用意していますので、試してみてほしい機能です。最初は男性の営業スタッフから「全部ハートにすればいいんじゃないの?」という意見も出ましたけれど、そんな安直な発想では、女性層を掴むのは難しいですから。

フォーカス枠画面
フォーカス枠のデザインの一つ「シャイン」の画面。ピントを合わせている箇所に表示される。よくみると、中段のデザインが逆向きになっている

それと、液晶に表示されるインターフェース画面を携帯電話の待ち受け画面のように変更できるといいなと思い、メニュー画面の色を変えられるようにしています。好みにカスタマイズして、携帯感覚でずっと持ち歩いて使って欲しいんです。一番頻繁に目にする画面ですし、本体カラーがせっかく5色あるのに、液晶画面が全部同じというのはさびしいですから、レッド、ローズ、スカイ、オリーブ、アプリコットの5色を用意しました。また、また、操作音は従来からカスタマイズできましたが、女性向けにかわいらしい音に変更しました。画面デザインについては、同年代の女性デザイナーや開発スタッフと何度も話し合いをして、最終的に決定したものです。

───女性スタッフの視点として、現在のデジタルカメラはどう感じましたか?

私が所属している第二企画室は、実は女性が私一人なんです。今までも女性スタッフがいたことはあまりなかったようで、女性向けを意識して作られた製品にも、どこか違和感を感じていました。男性が狙った「女性向け製品」は、的が外れている部分があるんですよね。今回一つのデジタルカメラの企画のプロデューサー的な立場に抜擢されて、まず変えたいと思ったのはそういった細かい点です。

───企画を主導した感想を教えてください。

初めて取材を受けたので、いまとても緊張しています。逃げ出したい気分です(笑)。開発中は、上司やスタッフにしっかりと支えてもらいましたので、泣きたくなるようなことはなかったですね。本当に感謝しています。また、街に出る時には洋服の販売員の方や美容師さんとお話しする機会を見つけて、どのようなデジタルカメラがいいのか意見を伺っていました。自分の企画がカタチになっていくのが、すごく楽しかったです。開発期間の問題で今回入れられなかった点もありましたので、そこが心残りですね。例えば、ケースです。企画段階ではパンチングの入ったケースなど面白いアイデアも出ていて、実現できなかったのが悔しいです。次回の企画では、さらにたくさんのアイデアを盛り込み、製品化していきたいです。

───ユーザーに向けてメッセージがありましたらお願いします。

「EXILIM EX-Z80」は、携帯電話のように女性がいつでも持ち歩けることを目指して作られたデジタルカメラです。カバンの中などに忍ばせて、すぐに取り出して使っても違和感がないようにしています。自分好みの色や画面を選んで、カスタマイズして楽しく使っていただければなと思います。

岡崎 愛さん

───本日は、お忙しい中ありがとうございました。