白石氏は、今レースの2位という成績に対してこう自己分析する。「今回の2位という勝因は、"オーガナイズ"です。つまり、レースを大局的にとらえられたということです。実は僕、ヨットに乗る技術は本当にヘタなんです(笑)。沈ばかりしていました。ただ自分に秀でている部分は、船のキープ率、船のメンテナンスに優れていたことだと思っています。船をいかに安定させて走らせるかに長けているんです。僕はもともとエンジニアでありビルダー。今回の優勝者は"船乗り"でした。船をより良く知っている人が生き残ったということです。これがもし、普通の風が吹いていたら……とても勝てなかった」。

これが白石が2006年『5OCEANS』で2位を獲得したさいの船の模型。「実際の船は、今もイギリスで中古艇として売っています。ぜひどなたか買ってください(笑)」

そして今後の『5OCEANS』参加への意気込みについても印象的なコメントを残した。「4年後がダメなら8年後、と長い目で考えている。優勝することは急ぐべきことではないと思っています。それは今回のレースで思い知らされました」と。そう語るひとつの理由として、資金面があげられる。「(レース中は)僕が船長となるので、必ずチーム、スポンサー、スタッフ、全員に同じ目標を持ってもらうことになります。あまり船に投資してしまうと、人件費などが薄くなる。だから今回は、お金の配分もバランスよく考え、人件費に一番費やしました。フランス、アメリカ、イギリス、アイルランド、そして日本の5カ国から優れたスタッフを集め、より良いセイリングを実行するために、今後はさらに時間とお金をかけたいです。レースというのは、最終的にまず走りきること、そしてよりよく走ることが大事ですから」。

世の中は諸行無常、必ず変化の中にある

「スポンサー・フィーだけでは目標額は達成できません。今は借金返済の毎日です」

「それから、冷静に自分の精神状態を把握すること、つまり自分を知ることが大事。僕は、ヨットレースはヘタだとわかっています。世界一周の航路には良い時と悪い時が必ずある。ずっと良い、ずっと悪いということはない。世の中は諸行無常で、必ず変化の中にある。それと同じ。その変化をより良く見て進むことです。調子がいい時は直感を信じます。コンピュータよりも自分の直感で進む方向を決めます。それが見事に当たります。しかし、そういう場合だけじゃない。怪我をしたり事故したり、落ち込んだり、調子が悪い時がある。そんな時は、怪我や事故に注意し、直感を信じない。コンピュータを信じるようにします。ヨットレースで一番大事なことは『自分の心の動き』なんですね。自分の心の状態、平常心は保たれているかとか、心がクリアであるか、ということです。勝ちたいという欲求のフィルターで見ると、途中で転覆したりするもの。逆に萎縮した状態で周りを見ると、とたんにスピードが落ちてしまう。だから、常に自分のやるべきことを考えて、自分のベストの状態を考えてセイリングすることが大事だと思うんですよね」と、終盤、力を込めて語っていた。

このように村田氏と白石氏のトークショーは、"涙あり笑いあり"で、会場を熱くさせるものとなった。それはまるで、時化たり凪ぐんだりと、世界の大海原の空や波の変化に似ていないだろうか。